642 洞窟に入る

矢崎弘は心配そうな顔で尋ねた。「今からどこへ行くの?外は危ないから、一緒に行かせてよ!」

本当に危険な目に遭ったら、彼なら少しは役に立てるはずだ。

矢崎粟は玄学の実力も強く、身体能力も優れているが、一人で夜中に山に入るのは、あまりにも危険すぎる。

実際、彼は矢崎粟に夜中の外出を止めさせたかったが、彼女に口出しする権利も立場もなかった。

矢崎政氏と矢崎若菜も言った。「粟、どこへ行くの?私たちも一緒に付いていくよ。」

人数が多ければ、それだけ安全性も高まる。

矢野常も立ち上がり、期待を込めて矢崎粟を見つめた。

矢崎粟は目の前の痩せた数人を見渡して言った。「あなたたちを連れていくより、一人で行った方がマシよ。あなたたちは足手まといになるだけ。自分たちの実力がわかってないの?私は行くわ。好きにしていて、ついて来ないで。」

矢野常は心配そうな顔で、こっそりと後をつけようと考えた。

矢崎政氏と矢崎弘も同じことを考え、密かについていこうとした。

矢崎粟は皆の考えを見透かしたかのように、冷たい声で言った。「こっそりついてきたら、殴りますよ!」

矢崎弘は矢崎粟の腕前を思い出し、恐ろしくなってゴクリと唾を飲み込んだ。

一発殴られたら、きっと顔中アザだらけになるだろう。

矢崎若菜は仕方なく頷いた。「わかったわ、ついていかないから。気をつけてね。動物だけじゃなく、人間にも気をつけて。」

粟はあんなに綺麗だから、悪い人に目をつけられたら厄介なことになる。

矢野常も歯を食いしばって頷いた。「助けが必要になったら、電話してくれ。すぐに駆けつけるから。」

心配だったが、他に方法がなかった。

矢崎粟は皆を一瞥し、何も言わずに背を向けて歩き去った。

矢崎粟が去った後、森田廣は肘で矢野常を突いて尋ねた。「本当にヒーローにならないの?」

矢野常は首を振り、俯いて言った。「粟が私たちについてきて欲しくないなら、その意思を尊重するよ。きっと彼女なりの考えがあるはずだから、口出しはしない方がいい。」

粟に嫌われたくなかった。

矢崎政氏も言った。「粟さんは俺たちより強いんだから、確かに保護は必要ないよな。俺たちが行っても、本当に足手まといになるだけだ。」

プライドが傷つくような言い方だが、事実だった。