640 最初の犠牲者

予想通り、黒幕が手を打ってきた時、最初に被害を受けるのは森田廣たちだろう。

矢野朱里はテントの中に座り、霊木の谷の外を眺めながら、スマートフォンでこの谷の詳細な情報を調べたところだった。

霊木の谷がこの名前で呼ばれる理由は、谷の両側の山に多くの樹齢百年以上の木々が生えており、これらの木々には霊性があるからだという。

もし誰かが密かに古木を伐採しようとすると、守護する野獣に襲われるという。

数年前、ある人が迷信だと思い込んでチェーンソーを持って山に入り、樹齢五百年の銀杏を伐採しようとしたところ、その場で怪物に足を噛みちぎられたという。

その人は目覚めた後、完全に狂気に陥り、記憶の一部も失われ、まともではなくなってしまった。

関係機関の人々がこの事件を聞きつけ、探検隊を連れて調査に来たが、何も発見できなかった。

この事件はネット上で広まり、多くの人々に知られることとなった。

半年前、あるインフルエンサーが話題を集めようと、わざわざボディーガードの一団を連れて山に入った。

その人は午前二時半にライブ配信を始め、一人であるかのように装い、チェーンソーを持って山に入って木を切った。

切り終わった後も、周囲に何の動きもなかった。

ネットユーザーたちはつまらないと感じ、誰も注目しなくなったが、配信終了後、ボディーガードと下山する際に、腕を丸ごと噛みちぎられてしまった。

その場にいた誰も、その野獣の姿を見ていなかった。

それ以来、そのインフルエンサーも何か邪術にかかったかのように、おかしな様子になってしまった。

事件の後、霊木の谷は再び注目を集め、多くの関心を引き起こし、誰も密かに山に入って薪を集めようとはしなくなった。

さらに霊木の谷には多くの警告の看板が立てられ、近くの山の木々を伐採しないよう注意を促し、襲われた場合は自己責任だと警告していた。

矢野朱里は事の全容を理解し、矢崎粟に尋ねた。「粟、この谷に本当に怪物がいるの?その怪物は九つの頭を持っていて飛べるって聞いたわ。人の手足を食べるのが大好きなんですって。」

ネット上ではそのように推測されていた。

古木を伐採すると、怪物の残虐性と血に飢えた性質が引き出されるという。