藤村敦史は心の中で不吉な予感が募り、弟子のことがますます心配になっていった。
仕方なく、彼は携帯電話の別の番号にかけ直した。その番号の所在地は中華街だった。
電話がつながると、藤村敦史は尋ねた。「藤村慎一はそちらにいるか?連絡が取れないんだ。」
向こう側から、老人の声が聞こえてきた。「彼は数日前に霊木の谷へ向かったよ。ある玄学師を追いかけるためだったが、おそらくその玄学師に捕まったんだろう。」
「その玄学師は誰だ?」藤村敦史は冷たい声で尋ねた。
老人は言った。「国内で非常に有名な女性玄学師だよ。矢崎粟という名前で、実力は相当なものだ。矢崎粟を探しに行くなら、十分な準備をした方がいい。」
藤村敦史は少し考えてから答えた。「忠告ありがとう。私の弟子の情報を調べてほしい。何か分かれば、必ず報酬は弾むつもりだ。」
彼は以前、藤村慎一から女性の玄学師と対決すると聞いていた。
もしかして藤村慎一の失踪は、本当に矢崎粟と関係があるのだろうか?
藤村敦史はこれを完全には信じておらず、さらなる調査が必要だと考えていた。
「問題ない」老人はすぐに承諾し、声には笑みが含まれていた。
彼はその情報が悪い知らせであることを望んでいた。できれば藤村慎一が矢崎粟に殺されていてほしかった。そうすれば藤村敦史は必ず矢崎粟に復讐しに行くはずだから。
二人が電話を切った後、老人は部下を呼び、霊木の谷で何が起きたのか確認させた。
一方、藤村敦史は再び電話を手に取り、息子に電話をかけた。
彼の息子は呪術の習得には向いていなかったため、ずっと外でビジネスを営んでおり、人脈も少なくなかった。
電話がつながると、藤村敦史は息子に即座に東京へ行き、藤村慎一と矢崎粟の間で起きたことを調査するよう命じた。もし藤村慎一が本当に矢崎粟に殺されていたのなら、必ず復讐すると。
……
山の上で、矢崎粟はテントの中に入った。
矢野朱里は上から下まで矢崎粟を確認し、怪我がないことを確かめてから、胸をなでおろして言った。「粟、すごく心配したわ。目が覚めたら姿が見えなくなってたから。」
「大丈夫よ、心配しないで!」矢崎粟は慰めた。
矢野朱里がこんなに心配するなら、メモを残しておけばよかった。
呪術師が本当に夜中にテントを襲ってくるとは、矢崎粟も予想していなかった。