矢崎粟はその人の気配を感じ、本能的に嫌悪感を覚えた。まるで何か暗いものに触れたかのようだった。
彼女は確信していた。この人が黒幕でなくとも、善人ではないことを。
矢崎粟は口角を歪めて、「へぇ?私は堀大師のことなんてあまり聞いたことがないわ。どうやら、修行が足りないようね」と言った。
この言葉に、堀大師の側にいた森村辰雄道士は怒鳴った。「無礼者!堀首席に対して無礼な!」
若葉道士も怒りの表情で矢崎粟を見つめた。
病室の雰囲気は一気に緊張した。
矢崎粟は嘲笑うように、「名前を知らないことが無礼なの?堀大師だけでなく、あなたたち二人の道士も見かけ倒しみたいね。もしかして、権力を笠に着て人をいじめる輩なの?」
「下がれ!」
堀大師は後ろを向いて一喝し、矢崎粟に向き直ると、顔には相変わらず笑みを浮かべていた。「矢崎大師の仰る通りです。確かに私の修行は足りず、名声も十分ではありません」
彼は笑顔を見せていたが、矢崎粟はその目に宿る冷たさを見逃さなかった。
矢崎粟は軽く笑って、「そうですか。堀大師は小林瑞貴の呪いの毒を解けるとか?それは本当なんですか?」
「もちろん本当です。私は決して嘘は申しません」堀大師はにこやかに答えた。
矢崎粟は続けて尋ねた。「じゃあ、言ってください。こんなに回りくどい方法で、これほど手間をかけて、結局小林家の何が欲しいんですか?」
この言葉を聞いて、堀信雄の心臓が跳ねた。鋭い眼差しで矢崎粟を見つめた。
もしかして矢崎粟は何か知っているのか?
若葉道士は冷たい声で言った。「矢崎大師、その言い方は違います。何が回りくどい方法だの小林家の物を欲しがるだのと。我らが堀大師は清廉潔白で、決して財物に執着したりしません。今回の解毒術も、小林美登里が堀大師にお願いしたからこそ来たのです」
「そうよ、そうよ!堀大師様は私が一生懸命お願いして来ていただいたのよ。どうしてそんな失礼な物言いができるの?」小林美登里は矢崎粟を睨みつけ、不機嫌な表情を浮かべた。
この矢崎粟は彼女に敵対しているのではないか!
彼女がやろうとすることすべてに、矢崎粟は水を差そうとする。
せっかく堀大師を招くことができたのに、矢崎粟のこの数言で、堀大師を怒らせて帰らせてしまいそうだった。
森村辰雄道士も袖を払い、顔には怒りが満ちていた。