708 残忍

三十秒後、廊下の奥にマスクをつけた男がゆっくりと現れた。

マスクにはヒガンバナの模様が描かれていた。

藤村慎一は口を押さえ、一切の音を立てないようにした。

彼は中華街に滞在していた時期があり、この男が殺し屋として知られる鈴木貴志だと分かっていた。

噂によると、鈴木貴志が出手すれば、生存者はほとんどいないという。

ここで死ぬことになるのだろうか?

彼は諦めきれなかった。まだ結婚も子供もいないし、師匠のために門派を振興させることもできていない。

監視カメラの中で、鈴木貴志はどんどん近づいてきて、最後に藤村慎一の牢屋の前で立ち止まり、ゆっくりと腰の袋を解き、黒い石を取り出した。

彼は手を伸ばし、石に貼られた符紙を剥がした。

そして、目を閉じ、次々と呪文を唱え、石の力を最大限に引き出すと、石の黒さが実体化したかのようになった。