707 余計な事態

老人の表情は冷たいままだった。「他に誰がいる?あの忌々しい矢崎粟のことだ。奴は私に逆らい続け、私から使える駒を何人も奪った。懲らしめなければ、私を甘く見るだろう」

「殺すべきです!」鈴木貴志の目に鋭い光が走り、殺気を漂わせた。

彼は死体の山を越えてきた男だ。一人の女など恐れはしない。あの女が自分に勝てるとも思わない。

老人は首を振った。「今回は彼女に手を出す必要はない。彼女は既に五級大円満に昇進している。お前では彼女を殺せない。別の仕事を頼みたい」

矢崎粟を殺せないと聞いて、鈴木貴志は不服そうな表情を浮かべ、顔色が曇った。

彼は江湖一の暗殺者だ。一人の女優を殺せないはずがない。

鈴木貴志は老人が自分を観察しているのに気付き、急いで言った。「師匠、どうかご命令を。必ず完璧に遂行いたします」

彼は毅然とした表情で、目には殺意を宿していた。

老人はしばらく考え込んでから、ゆっくりと言った。「矢崎粟が呪術師を捕らえた。その呪術師は我々の居場所と情報を漏らす可能性がある。もう二度と口が利けないようにしてほしい」

死人こそが最も従順なのだ。

だから、藤村慎一は消さねばならない。

鈴木貴志は老人の意図を理解し、すぐに拳を合わせて言った。「承知いたしました。ご安心ください、全力を尽くします」

老人は机の上の箱から黒ずんだ石を取り出した。

石には符紙が貼られていた。

この石には邪気が満ちており、内部には三倍に強化された殺人呪術が仕掛けられていた。藤村慎一がこの石に触れれば、必ずその呪術で命を落とすだろう。

符紙の役割は、一時的に石の中の邪気を抑制することだった。

石の最も深い部分には、矢崎粟の気配が一筋残されていた。

この気配は、前回矢崎粟が中華街の空港で戦った時に、老人がこっそりと採取したものだ。今こそ使い時だった。

石が発見された時、誰もが矢崎粟の復讐だと思うだろう。牢獄の中で故意に藤村慎一を殺したのだと。

彼らは矢崎粟に罪を着せることができる。

老人は言った。「この石の中には殺人呪術が仕込まれている。現場に着いたら、符紙を剥がして発動させればいい。手際よく、余計なことはするな」