744 無名氏

手紙の真ん中に、文字が書かれていた。

【差出人:無名氏】

【宛先:矢崎さん】

その文字は習字帳から練習して書いたかのように、とても整然としていて、特に研究する価値はなかった。

矢崎粟も何の手がかりも見つけられなかった。

彼女は手紙を鼻の下に当てて嗅いでみると、血の臭いがした。

このインクは……血で作られているようだ。

彼女は確信していた。相手は適当にごまかしているわけではなく、むしろ背後の人物よりもさらに恐ろしい、極度に血なまぐさい人物なのだと。

藤田川も手紙を受け取り、外側を見回して、「開けていいかな?」と言った。

やはり彼に手紙を開けてもらおう!

もし何か気持ち悪いものや恐ろしいものが出てきても、すぐに防げるからだ。

「いいわ」矢崎粟は軽く頷き、異議を唱えなかった。