矢崎粟は少し笑って、「今一番心配すべき人は矢野常よ」と言った。
矢野常は邪気に侵されており、法術で邪気を払う必要があった。
「粟、お前は……」
矢野常は矢崎粟を見つめ、助けを求めようとした。
しかし、言葉を言い終える前に、矢崎粟は冷たく断った。「それは他の人に頼んでください」
彼女はもう矢野常と関わりたくなかった。
邪気を解くのは、実力のある玄学師なら誰でもできることだった。
矢野常の目が暗くなり、心の中で不満げに言った。「他人は信用できない。他の玄学師にも頼みたくない」
「三日以内に解かなければ、必ず死ぬわ」と矢崎粟は淡々と言った。
そう言うと、彼女は森田廣の方を向いて別の話を始めた。
「森田さん、この期間、背後にいる人物が大きな動きを見せるかもしれない。あなたたちに頼みがあるの。各家の状況を監視して、異常があれば記録しておいて。事が終わったら、その記録を貰うわ」
予想通りなら、背後の人物が動き出すはずだった。
「大きな動き?」
森田廣は慎重に考えた後、この仕事は簡単だと感じた。「それなら任せてください。他に必要なことがあれば、それも一緒に任せてください」
彼は矢崎粟の前で良い印象を残し、矢野朱里に良い言葉を掛けてもらいたかった。
「今のところはないわ」
矢崎粟は矢崎政氏と矢崎若菜の方を向いて、「矢崎夫人と小林家二房の動き、それに矢崎美緒の方も常に注意して。何か手がかりがあったらグループで連絡して」と言った。
「はい」と矢崎若菜と矢崎政氏は揃って答えた。
矢崎粟は密かに矢崎政氏たち四人に呪術をかけた。外部の人間に今日の話を漏らそうとすると、自動的に声が出なくなる呪術だった。
この四人を信用していないわけではなく、うっかり話してしまうことを恐れてのことだった。
呪術をかけた後、藤田川は彼女に頷いた。
彼も矢崎粟の小細工に気付き、賛同していた。
矢崎政氏は躊躇した後、矢崎粟に尋ねた。「粟、言っていた大きな動きって危険なの?背後の人物はお前のことを相当恨んでいるはずだから、気を付けて」
彼は不吉な予感を感じていた。
今日以降、恐ろしいことが起こるかもしれない。
今の平穏は一時的なものに過ぎない。
そう考えると、彼の心はますます苦しくなった。