776 一網打尽

彼は矢崎粟を早めに始末しなかったことを本当に後悔していた。

これほど多くのチャンスがあったのに、全て無駄にしてしまった。

矢崎粟は笑って言った。「毎回そう言うけど、一度でも成功したことある?口先だけが達者なだけよ。あなたみたいな馬鹿者、お父さんはきっとあなたをこの世に産んだことを後悔してるわ。あなたが馬鹿じゃなかったら、森村邦夫という大物を釣り上げることもできなかったでしょうね」

堀信雄は心臓が跳ね上がり、慌てて尋ねた。「全部お前の計算だったのか?」

だからこそ今日、こんなにも簡単にここまで来られたのだ。

今日は運が良いと思っていたのに。

全て矢崎粟の計算で、森村邦夫道士を引き出すのが目的だったというのか?

彼の慌てた様子を見て、矢崎粟は声を立てて笑った。「まさかこんなに馬鹿だとは思わなかったわ。一つの場所から逃げ出したと思ったら、また別の場所で死を待つなんて。おまけに後ろ盾のことまで話しちゃうなんて、本当に親孝行な息子ね」

堀信雄は「……」

彼はこっそりと森村邦夫を見やり、父が怒っていないことを願った。

森村邦夫の表情はあまり変わっていなかったが、口元には薄い笑みを浮かべていた。しかし堀信雄には、その心の中の怒りが見て取れた。

森村邦夫は突然笑い出し、矢崎粟を指差して言った。「お前はよくやった!」

「当然です」矢崎粟は冷たく言った。

森村邦夫は笑いながら続けた。「まさか小師弟が死んでこんな大きな驚きを残してくれるとは思わなかった。こんな優秀な弟子を育て上げるなんて、本当に誇らしいことだ。残念ながら、今日お前も彼と一緒に極楽浄土に行くことになる。師弟二人で極楽浄土で再会するがいい!」

矢崎粟を見ると、かつての小師弟を見ているようだった。二人とも才能が高く、謀略も誰にも劣らない。それなのに、正義感も持ち合わせている。

この二人を見ていると、森村邦夫は自分が下水道のネズミのように感じ、頭が上がらなかった。

矢崎粟の表情は一瞬にして冷たくなった。「師匠は、あなたに殺されたんですね?」

森村邦夫は首を振った。「殺したんじゃない。ただ早めに極楽浄土で幸せになってもらっただけだ。彼があんなにも規則を守らないから。私が師兄なのに、私に逆らうなんて!お前たちには分からないだろうが、私も小師弟のことは大切に思っていたんだ」