藤田川は矢崎粟の眉間に寄せられた皺を見て、慰めるように言った。「図面は玄学管理所に渡すだけでいい。他のことは気にしなくていい。それはあなたが心配することじゃない。その人は恐らくあなたを通じて玄学管理所と繋がりを持とうとしているんだろう」
矢崎粟は頷いて、「はい、分かりました。この図面は先輩のところで保管しておいてください。必要な時に、また取りに来ます」と言った。
「いいよ!」藤田川は快く同意した。
矢崎粟が自分を頼ってくれることに、彼は嬉しく思った。
二人が背後にいる人物の策略について話し合っていると、矢崎粟は突然何かを思い出したように急いで言った。「先輩、急に思い出したことがあります!」
「言ってごらん」藤田川は頷いた。
矢崎粟は真剣な表情で話し始めた。「工匠一族の子供を助けた夜、彼は病室から姿を消してしまいました。枕の下に一枚の紙切れを見つけたんですが、そこに書かれていた言葉が少し変でした。先輩に伝えるのを忘れていました」
「どんな言葉だ?」藤田川は続けて尋ねた。
矢崎粟は「一人ではない、来ては去り、去っては来る」と言った。
この言葉は、まさに南鷹秘術の憑依に対応している。憑依した後は、来ては去り、去っては来るではないか?
藤田川も明らかにそのことに気付いたようだ。「その時の紙切れはまだ持っているか?」
矢崎粟は頷き、巾着から取り出した。
藤田川は紙切れを明かりに照らして、注意深く見た。そこには歪な文字が書かれており、まるで子供が書いたような字だった。
もしかして澄夫が書いたのだろうか?
鉛筆で書かれており、筆圧も弱く、筆跡も奇妙だった。
しばらく見ていたが、他の手がかりは見つからず、諦めるしかなかった。「おそらく後になって分かることだろう」
藤田川は紙切れを矢崎粟に返した。
矢崎粟は部屋に戻ると、清心符を描き、部屋の入り口に一枚貼った。
彼女は机で修行の書物を読んでいた。
しばらくすると、携帯が振動する音が聞こえた。「ブルブル!」
開いてみると、原部長からのメッセージだった。【粟、鈴村薫と川上孝史が部署に戻りたいと言っているんだけど、少し心配で。明日時間があったら、病院で二人の体調を診てもらえないかな?】
鈴村薫と川上孝史が目覚めてから、二人は病院で静養していた。