矢崎粟が別荘を出た後、藤田川が去った方向に向かって車を走らせた。
彼女は路傍の茶屋に着き、中に入ると案の定、悠々とお茶を飲んでいる藤田川を見つけた。
矢崎粟は微笑んで、彼の向かいに座り、「先輩、やはりここにいましたね。どのくらい待っていたんですか?」
「15分ほどだよ」と藤田川は笑いながら答えた。
二人は既に打ち合わせをしており、途中で藤田川が誘導されて離れた場合は、途中で止まって矢崎粟を待つことになっていた。
矢崎粟はお茶を一口飲んで尋ねた。「その時はどんな状況でしたか?」
藤田川はゆっくりと説明した。「あの運転手には法力の波動があった。おそらく玄学師で、間違いなく堀信雄の手下だろう。途中でトイレに行った時に、法術で分身を作って車に乗せ替えた。運転手はまだ私が離れたことに気付いていない」
矢崎粟は尋ねた。「電話をかけてきたのが森村邦夫なら、彼は確実に堀信雄の協力者ですよね?」
藤田川は頷いた。「森村邦夫は確かに協力者だが、この件の首謀者については更に検討が必要だ。事態はそう単純ではないと思う。私が離れた後、何か新しい情報はあったか?」
彼らはどんな可能性も見逃すわけにはいかず、この数日は特に注意を払う必要があった。
矢崎粟は笑って言った。「先輩には何も隠せませんね。あなたが去った後、私は堀首席の悪事をネットで暴露させました。すると彼はその場で反噬を受け、十数歳も老けてしまったようです」
藤田川は眉をしかめ、目に思索の色が浮かんだ。「そうだとすると、私の予想とは少し違ってくるな」
彼は元々、運気の受け手が最大の敵だと推測していた。
堀信雄だとは思わなかった。
では堀信雄の背後にいる者は、何を企んでいるのか?
事態は本当に複雑になってきた。
矢崎粟は彼が考え込んでいるのを見て、思わず尋ねた。「先輩、私の知らない情報がまだあるんですか?教えてください」
森村邦夫は彼女の師伯だが、堀信雄と関係があった。
藤田川はあれだけ長く生きているのだから、きっと彼女の師匠と師伯の間の事情を知っているはずだ。
藤田川は頷き、長いため息をついた。「知りたいというなら、全て話そう」
「私が目覚めた後、かつての流派を探した。時が経ちすぎて、当時の流派は衰退し、最後の伝人は二人の弟子しか取らなかった。森村邦夫と、お前の師匠の高橋寛人だ」