823 5000万

「うん」矢崎美緒は白目を向けて、無関心そうに言った。

監督は続けて言った。「この金額は合計で5000万だ。しっかり工面してくれ。遅くとも明日の夜までに口座に振り込んでくれ」

彼は少し不思議に思った。

今日の矢崎美緒の態度が少し普段と違う。騒ぎ立てたりしない。

矢崎美緒は冷たい声で言った。「5000万は多すぎる。最大でも3000万しか出せない。受け取るかどうかはあなた達次第。さっきの話は録音してあるから、もし同意しないなら、ネットに上げて、みんなに判断してもらうわ」

どうせ今は彼女にはファンがいるから、しばらくは持ちこたえられる。

監督は声を抑えて怒鳴った。「忘れるな。私たちは契約を交わしているんだぞ。お前が問題を起こして、制作側が尻拭いをしなければならないのか?」

「専門の弁護士に聞いたわ。裁判になっても、最大でも5000万の賠償で済むけど、時間を引き延ばすのは制作側よ。裁判は作品全体にマイナスの影響を与えるでしょう。本当に裁判をするつもり?」矢崎美緒は新しくしたネイルを見ながら、嘲笑うように尋ねた。

監督は怒り心頭で、「3000万は無理だ。少なすぎる」

「お互い一歩譲って、4000万にしましょう」矢崎美緒は冷たく言った。

監督はため息をつき、屈服するしかなかった。「わかった。早めに金を振り込んでくれ。我々はその金で仕事を始めるのを待っているんだ」

「わかったわ、明日の夜に振り込むわ」矢崎美緒は言った。

電話を切った後、監督は怒りで壁を殴り、手から血が流れた。

今回の件は彼にとって教訓となった。今後は俳優の選考をしっかりと行い、絶対に矢崎美緒のような問題のある芸能人とは二度と仕事をしないと。

矢崎美緒は口角を上げて笑った。「やっぱり私の思った通りね」

彼女は早めにこの金を工面しなければならない。

本田水鳥のカードには2000万あり、最近の配信で600万を得て、小林美登里からも600万もらい、自分の手元にも300万ある。

つまり、あと500万足りない。

あちこちから工面すれば、すぐに金額を揃えられるはずだ。

……

夜、矢崎粟の別荘にて。

小島一馬は車から降りて、別荘に入った。

入るなり、バーベキューコンロが既に設置されており、矢野朱里が肉と野菜を串に刺しているのが見えた。