857 協議書の締結

一番重要なのは、小林美登里が彼女が甥と結婚したことを知ったら、もっと怒るだろうということだ。

矢崎美緒は再び吉野柔に電話をかけた。

彼女は口を開くなり、「柔、いとこのお兄さんって本当に優しいの。私が拘置所から出て住む場所がないって知って、わざわざお金を送ってくれたの。今はそのお金で一番いいホテルに泊まれるわ。本当に嬉しい」と言った。

吉野柔の心臓が一瞬止まりそうになった。

この二人がまた連絡を取り合うなんて、彼女は二人の関係を断ち切らなければならない。

吉野柔は言った。「こうしましょう。私の名義で空き家になっている家があるの。市の中心部じゃないけど、とてもいい家よ。三階建ての別荘なの。私たちは姉妹だから、あなたが住むなら安心だわ。そこに住んでみない?」

矢崎美緒は得意げな表情を浮かべた。

彼女は知っていた。吉野柔が小林博と連絡を取っていると聞けば、必ず住む場所を提供してくれるだろうと。

そうすれば、この8万円を節約できる。

矢崎美緒は急いで言った。「そんな申し訳ないわ。家賃を払わせてください」

「いいのよ、そんなお金気にしないで。私たちは親友でしょう。早く来て。住所をあなたの携帯に送るから、後で別荘で会いましょう」と吉野柔はすぐに答えた。

電話を切った後、吉野柔は決意に満ちた表情を浮かべた。

彼女は絶対に矢崎美緒を小林博から遠ざけなければならない。そうすれば、彼女は小林博と一緒になれる。

電話を切った後、矢崎美緒は思わず笑みを浮かべた。

この吉野柔は本当に純真だ。

彼女が吉野柔を頼ったのは、単に住む場所が欲しいだけでなく、吉野家の名前を利用して本田家の者たちを牽制したかったからだ。

もしホテルに泊まっていたら、本田家の者たちにすぐ見つかってしまう。

そうなれば、本田家の者たちが追いかけてきて面倒を起こし、手元の8万円が水の泡になってしまう。

今は吉野柔の家があり、門には警備員もいる。これは本当に最高だ。

矢崎美緒は以前泊まっていたホテルに行き、そこに預けていた荷物をスタッフから受け取り、引っ越し業者に別荘まで運んでもらった。

彼女は食べ物を買ってから、別荘に向かった。

矢崎美緒が到着すると、吉野柔がすでに別荘の門前で待っているのが分かった。