858 手形を押す

「どう?契約書を見たかしら?サインすれば、ここで安心して暮らせるわよ」吉野柔は笑みを浮かべながら言った。

彼女は矢崎美緒の表情の硬さを見逃していなかった。

やはり、矢崎美緒は小林博に対して下心があるようだ。

矢崎美緒は一瞬背筋を硬くし、深く息を吸った。「柔、私たち姉妹の間で契約なんて必要ないでしょう?あなたが従兄を好きなのは分かってるわ。私は横取りしたりしないわ」

彼女はサインしたくなかった。

吉野柔は頷いた。「昔から兄弟でも明確な計算が必要って言うでしょう。私たち姉妹だからこそ、はっきりさせておくべきよ。そうしないと、私たちの関係が損なわれるわ。そう思わない?」

吉野柔は一旦言葉を切り、続けた。「この家には警備員が二人と、料理人と清掃婦がいるわ。契約書にサインすれば、ここで快適に暮らせるのよ」