藤村慎一は南西部族の服を着て、髪を結い上げており、全体的に陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
彼は矢崎粟を冷たく見つめ、「よくもここまで来たな。私の縄張りに来るとは、命が惜しくないのか?」
藤村慎一は情報網を持っていた。
南西地方全域に、スパイがいた。
以前から矢崎粟たちを監視させていたが、昼には南西地方に向かって飛行機で来たという情報が入った。
自ら確認に来てみると、案の定、あの忌々しい矢崎粟だった。
東京で起きた出来事は、彼の一生の恥辱であり、思い出したくもなかった。
「忘れたのか?誰が牢獄から救い出してやったのかを」矢崎粟は冷たく言い放った。
藤村慎一は冷笑して、「それがどうした?私を救ったのは、師匠の機嫌を損ねたくなかっただけだろう。私に対して善意なんてないじゃないか」
矢崎粟は言った。「どう言い訳しても、私はお前の命の恩人だ。南西部族はこうやって恩人を扱うのか?」
「はははは……」藤村慎一は笑ったが、目には笑みの色はなかった。「自ら門前まで来たのだから、失礼を承知で呪術院にご案内しよう。ゆっくり昔話でもしようじゃないか」
呪術院は、呪術師の里の住まいだった。
部外者は入れず、呪術師とその客人だけが入ることを許された。
矢崎粟は目を光らせ、「もともと藤村敦史に会いに来たところだ。せっかくの誠意あるお誘いだ、ありがたく受けさせてもらおう」
「ふん、逃げられると思うな」藤村慎一は冷たく言った。
しばらくすると、もう一台の輿が現れ、矢崎粟たち三人は輿に乗り、呪術院へと運ばれていった。
三人は茶室へと案内された。
矢崎粟が茶碗の蓋を開けると、中には茶ではなく、何かの虫の足が浮かんでおり、肉のような香りがした。
小島一馬は眉をひそめ、「粟、飲まないほうがいい。体に悪影響があるかもしれない」
「わかった」矢崎粟は蓋を閉じた。
藤田川は茶室の窓際に歩み寄り、外を眺めた。外には中国風の庭園があり、假山や流水、人工の池があった。
池の中には蛇が泳いでいるのが見えた。
ここは確かに呪術院で、至る所に異様な雰囲気が漂っていた。
小島一馬は矢崎粟に向かって言った。「小島家に助けを求める必要はあるか?」
ここの雰囲気があまりにも不気味で、茶室に入ってから一人も人を見かけていない。案内人も立ち去ってしまった。