矢野朱里も理解できた。彼女の心にはまだ疑問が残っていた。「不思議なのは、吉野夫人がなぜ突然手を差し伸べたのか。きっと私たちの知らないことがあるはずよ」
はっきりさせないと、矢野朱里はずっと心が落ち着かなかった。
もし双方が合意に達したら、不利な事態が起こる可能性があった。
矢崎粟は少し笑って言った。「私の知る限り、この数年間、吉野夫人と小林さんは常に対立していたわ。元々矢崎家に嫁ぐはずだったのは吉野夫人だったけど、矢崎社長が小林さんに目を付けて、婚約を破棄したの。それ以来、二人の対立は深まる一方だったわ」
「つまり、吉野夫人は小林さんを怒らせるためにこうしたの?」矢野朱里は目を輝かせて推測した。
そうであれば、吉野家は矢崎美緒と何の協定も結んでいないことになり、矢崎美緒はまだあの落ちぶれた偽お嬢様のままということだ。
矢崎粟は頷いてから首を振った。「そう言えるけど、それだけじゃないわ」
みんなが困惑しているのを見て、彼女は続けた。「矢崎美緒は小林博を探して、小林博が矢崎美緒にアドバイスをしたの。吉野夫人の娘の吉野柔を探すように言ったわ。吉野柔は小林博のことが好きだから承諾したの。だから、小林博が黒幕なのよ」
表向きは吉野家が矢崎美緒を助けたように見える。
実際は、小林博が矢崎美緒を助けたというのが正しい。
「まさか彼が!」矢野朱里は複雑な表情を浮かべ、はっと気づいて言った。「じゃあ、なぜ小林博は矢崎美緒を助けようとしたの?」
矢崎粟は言った。「彼には自分の利益があるのよ」
矢崎粟は常に矢崎美緒の携帯を監視していて、通話履歴で最初に小林博に電話をかけ、次に吉野柔に電話をかけているのを見て、事の成り行きを推測できた。
結局のところ、矢崎美緒の知能はそれほど高くないのだから。
小島一馬は嫌悪感を露わにして言った。「この小林博は本当に矢崎美緒を可愛がってるんだな。叔母さんが復讐しようとしているのに、裏で止めようとするなんて」
矢野朱里は冷笑して言った。「小林博も賢いわね。助けたいけど叔母さんに気づかれたくないから、吉野家に手を出させた。これで彼の思い通りになったわけね」
矢崎粟は言った。「彼はやはり小林さんを気にしているのよ」
小林さんを気にしているだけでなく、元義理の叔父である矢崎正宗のことも気にしているのだ。