矢野朱里も理解できた。彼女の心にはまだ疑問が残っていた。「不思議なのは、吉野夫人がなぜ突然手を差し伸べたのか。きっと私たちの知らないことがあるはずよ」
はっきりさせないと、矢野朱里はずっと心が落ち着かなかった。
もし双方が合意に達したら、不利な事態が起こる可能性があった。
矢崎粟は少し笑って言った。「私の知る限り、この数年間、吉野夫人と小林さんは常に対立していたわ。元々矢崎家に嫁ぐはずだったのは吉野夫人だったけど、矢崎社長が小林さんに目を付けて、婚約を破棄したの。それ以来、二人の対立は深まる一方だったわ」
「つまり、吉野夫人は小林さんを怒らせるためにこうしたの?」矢野朱里は目を輝かせて推測した。
そうであれば、吉野家は矢崎美緒と何の協定も結んでいないことになり、矢崎美緒はまだあの落ちぶれた偽お嬢様のままということだ。