第12章:「彼女は、私の妻だ。」

三十分後。

坂本加奈は電池切れの携帯を握りしめ、顔を赤らめながら制服を着た警察官のお兄さんを見つめて、「お巡りさん、私は本当に成人してるんです。墨大の美術科の学生で、ただ身分証を忘れただけなんです」と必死に訴えかけた。

警察官は彼女を上から下まで見渡して、「君たちの年頃の女の子は好奇心が強いのはわかるけど、こういう場所は成人してからにしなさい。さあ、署に行こう。後で保護者に迎えに来てもらうから」

「でも、お巡りさん、私は…」

警察官は他の人の身分確認に忙しく、彼女の説明を全く聞く耳を持たなかった。

佐藤薫は横で必死に笑いを堪えていたが、とうとう「プッ」と吹き出してしまった。

坂本加奈は彼女を睨みつけ、「笑い事じゃないでしょ。どうすればいいの?」

まさに大失態。初めてのクラブで未成年として警察署に連れて行かれそうになるなんて。

しかも保護者を呼ばれるなんて!!

佐藤薫は無邪気に肩をすくめ、「とりあえずお巡りさんについて行って、家族に迎えに来てもらえばいいじゃない」

「お兄ちゃんを呼んだらどうなると思う?」坂本加奈は脅すように言った。

「だから、私は先に帰るわ!バイバイ!!」佐藤薫は手を振り、すぐさま逃げるように立ち去った。

「あっ?蘭ちゃん...蘭ちゃん...」坂本加奈は追いかけようとした。どうして一人で逃げちゃうの!

数歩進んだところで警察官に髪を掴まれ、「逃げようとしないで。署に行くよ...」

坂本加奈は振り返り、泣きそうな顔で「お巡りさん、本当に成人してるんです!」

どうしてわかってくれないのo(╥﹏╥)o

「いいから、一緒に行こう...」現場検査が終わり、未成年は彼女一人だけだったので、引き上げる時間だった。

坂本加奈はその場に立ち尽くし、足に鉛を入れたかのように動けなかった。警察官は彼女の肩を軽く押し、「行くよ!」

彼女は説明を諦め、がっかりして頭を垂れ、一歩踏み出そうとした時。

「ちょっと待って」冷たい声が突然響いた。

坂本加奈は急いで顔を上げると、二階から降りてくる男性の姿が目に入った。スーツパンツに包まれた長い脚、白いシャツの襟元は二つのボタンが開いていて、セクシーな喉仏が覗いていた。静かな眼差しが上から彼女を見下ろしていた。

「...」坂本加奈はその場で固まり、足元で恥ずかしさのあまりディズニーランドを描きそうになった。

林翔平に結婚式で置き去りにされた時よりも恥ずかしい気分だった。

これは単なる失態どころか、宇宙レベルの大失態!

黒川浩二は坂本加奈の困惑した様子を無視するかのように、警察官の前に立ち、薄い唇を開いて「警察官さん、彼女は成人しています」

警察官は彼を見上げ、「知り合いですか?どういう関係なんですか?」

黒川浩二は頭を地面に向けそうな少女を横目で見て、淡々と言葉を絞り出した。「彼女は...私の妻です」

坂本加奈は急に顔を上げ、星のような瞳に驚きの色が広がった。

どうして私のことを妻だと言うの?友達の妹とか言えばいいのに?

警察官は疑わしげな目で黒川浩二を見つめ、まるで変態のロリコンを見るような目つきだった!

黒川浩二は説明せず、横にいる藤沢蒼汰に目配せをした。藤沢蒼汰はすぐに警察官を脇に連れて行って詳しく説明した。

藤沢蒼汰が警察官に何を言ったのかは分からないが、最後には警察官も黒川浩二の言葉を信じ、坂本加奈の方を見返した時には苦笑いを浮かべていた。「本当に成人していたとは。若く見えすぎですね!次お出かけの時は身分証を忘れないように。誤解されやすいですから」

坂本加奈は唇を噛み、小さな声で呟いた。「若く見えるのが私の罪なの...」

前髪を掻き上げながら、突然鋭い視線を感じた。