第011章：わざわざ帰ってきて苦海脱出を祝う

坂本加奈は驚いて、満面の笑顔で迎えてくれた佐藤薫の顔を見上げると、驚きは喜びに変わった。「蘭、いつ帰ってきたの？」

佐藤薫は一週間前に母親と一緒に海外のファッションショーを見に行っていたので、坂本加奈は彼女が突然帰ってくるとは思っていなかった。

「林翔平と結婚しなかったって聞いたから、特別に苦海から解放されたお祝いに帰ってきたのよ」佐藤薫は手を伸ばして彼女の頬をつついた。

結婚式以来、坂本加奈が初めて林翔平の名前を聞いた瞬間、心は隠しきれない寂しさに包まれ、顔の笑みも薄れていった。

佐藤薫は彼女の肩を抱き、慰めるように言った。「もう、落ち込まないで！世の中には男なんていくらでもいるわ。ダメなら次よ！私たちの加奈は美人で優しいんだから、追いかけてくる人がいないわけないでしょ？」

彼女は最初から林翔平のことが気に入らなかったので、母親と海外のファッションショーに行くことを選び、親友が偽善者と結婚するのを見たくなかった。

加奈がなぜ林翔平のことをそんなに良い人だと思うのか、全く理解できなかった！

坂本加奈は口元を緩ませ、「私、落ち込んでないわ。たぶん私と彼は縁がなかっただけ」

佐藤薫は明らかに彼女の言葉を信じていなかった。あれほど林翔平のことが好きだったのに、落ち込まないはずがない。黒い瞳をキラリと光らせ、突然思いついたように言った。「加奈、バーに行かない？」

「え？」坂本加奈は一瞬固まり、躊躇いがちに「それは、ちょっと...」

彼女は一度もバーに行ったことがなかった。坂本真理子が、バーに行ったら彼女の絵に芸術的才能を発揮すると言って禁止していたからだ。

「何がダメなのよ！」佐藤薫は気にする様子もなく、残念そうな口調で言った。「見てよ、あなたったら、せっかくの女子大生なのに、恋愛を楽しむこともせずに結婚しようとして、バーにも行かないし、ゲームもしないで、毎日アトリエで絵ばかり描いて、そのうち自分を馬鹿にしちゃうわよ」

「私は馬鹿じゃ...」

坂本加奈の反論が終わらないうちに、佐藤薫は彼女の手を引っ張って自分の車の方へ歩き始めた。「まず食事に行って、それからスパに行って、買い物して、それからバーに行くの...最近オープンした新しいバーがいいって聞いたわ。イケメンがたくさんいるらしいの...」

...

夜の闇が巨大なカーテンのように街全体を包み込み、賑やかだった街が次第に静かで穏やかになっていった。

坂本加奈は佐藤薫についてバーに入った。新規オープン記念のサービス中で、客が非常に多かった。

佐藤薫は明らかにバーの常連で、坂本加奈の手を引いて群衆をかき分けてバーカウンターまで行き、バーテンダーにコスモポリタンを2杯注文した。

「レモン水をください」坂本加奈は急いでバーテンダーに言った。

佐藤薫は思わず目を回した。「お願いだから、誰がバーでレモン水を飲むのよ？」

「お兄ちゃんが、あなたが私をバーに連れてきて、お酒を飲ませたって知ったら...」

坂本加奈が言い終わる前に、佐藤薫は慌てて降参のポーズをとった。「オーケー、レモン水でいいわ」

坂本加奈は唇を噛んで微笑み、バーテンダーが差し出したレモン水を軽く啜った。

佐藤薫は頬を膨らませて、小声で呟いた。「坂本真理子のやつ、私が加奈にお酒を飲ませたって知ったら、きっと私を生きたまま切り刻むわ！シスコンは怖いわね...」

「何て言ったの？」バーの中は騒がしすぎて、坂本加奈には彼女の言葉が聞こえなかった。

「なんでもないわ」佐藤薫は彼女の手を掴んで言った。「行きましょう、ダンスするわよ」

「えっ！」坂本加奈は一瞬固まり、可愛らしい顔に戸惑いと困惑の色が浮かんだ。「でも、私、踊れないわ...」

佐藤薫は彼女をダンスフロアに引っ張っていき、蛇のように細い腰を揺らしながら大声で言った。「難しいことないわよ、好きなように踊ればいいの...」

坂本加奈は群衆の中に立ち、周りの人々が夢中で踊っているのを見ていた。みんなそれぞれ違う動きをしているけれど、とても楽しそうだった。

会場の音楽が盛り上がっていたせいか、あるいは佐藤薫に感化されたのか、彼女は徐々に自分を解放し始め、体を揺らし始めた。顔の笑顔も増えていき、華やかな薔薇のように輝いていた。

ステージではDJが雰囲気を盛り上げ、バーの雰囲気がクライマックスに達しようとしたその時、突然バーのドアが開き、続いて会場の照明が点けられた...

「警察の立ち入り検査です。未成年者がいるという通報がありました...」