第50章:後で私が教えてあげる

一瞬にして世界中が静まり返り、針が落ちる音も聞こえるほどだった。

坂本加奈の小さな心臓がドキドキと鼓動を打ち、耳元では太鼓のような音が轟いていた。

鼻先には男性の穏やかな木の香りが漂い、夜風とともに彼女の全身を包み込んでいた。

黒川浩二は腕の中の小さな頭を見下ろし、力強い腕の中には彼女の柔らかな体があった。小さな存在が自分の腕の中で、おとなしく邪念を誘うほど可愛らしかった。

坂本加奈が最初に我に返り、一歩後ろに下がると、黒川浩二は自然に彼女を放した。ただし、腕の中の空虚感に唇を少し噛んだ。

「ありがとう」坂本加奈は長く上向きのまつ毛を上げて、彼の深く黒い瞳を見つめたが、不思議な動悸とともにすぐに視線を落とした。

黒川浩二は何も言わず、地面に落ちた箱に目を向けた。箱の中身は散らばり、数冊の本も落ちていた。

長い脚で階段を二、三歩で降り、身を屈めて箱を拾い、そして本を拾い始めた……

坂本加奈は振り返って、風にめくられた漫画に彼の手が触れるのを見て、顔が豚レバーのような色に変わり、慌てて叫んだ。「だめ……」

言葉を発した時にはもう遅かった。

黒川浩二の骨ばった指が漫画を拾い上げた時、これが普通の本ではないことに気付いた。そこには男女が重なり合う絵と、セリフが描かれていた。

坂本加奈は矢のように駆け下り、漫画を奪い取って背中に隠し、顔を真っ赤にして、言葉も詰まりながら「こ、これは私のじゃないの、私……蘭の代わりに預かってるだけ」と言った。

言い終わると、唇を舐め、大きな瞳で彼を見つめた:信じてくれる?

黒川浩二の瞳の色が変わることなく暗くなり、彼女には読み取れない欲望が漂っていた。喉仏が動き、薄い唇を開いて「ああ」と言った。

信じてくれたの?

坂本加奈は瞳を瞬かせ、少し信じられない様子だった。

「でも君はまだ若すぎる。こういうものはあまり見ない方がいい。私が一時的に預かっておこう」黒川浩二は唇を引き締め、ゆっくりと言った。

「え?」坂本加奈は一瞬固まり、すぐに首を振った。「それは必要ないわ!それに本当に私のじゃなくて、蘭のものなの!」

黒川浩二は態度を固く、交渉の余地を与えなかった。「私が預かるか、坂本真理子に預けるか、どちらかだ」

坂本真理子にこんなものを知られたら、どんなに叱られるか想像して「やっぱりあなたに預けます」と言った。