一瞬にして世界中が静まり返り、針が落ちる音も聞こえるほどだった。
坂本加奈の小さな心臓がドキドキと鼓動を打ち、耳元では太鼓のような音が轟いていた。
鼻先には男性の穏やかな木の香りが漂い、夜風とともに彼女の全身を包み込んでいた。
黒川浩二は腕の中の小さな頭を見下ろし、力強い腕の中には彼女の柔らかな体があった。小さな存在が自分の腕の中で、おとなしく邪念を誘うほど可愛らしかった。
坂本加奈が最初に我に返り、一歩後ろに下がると、黒川浩二は自然に彼女を放した。ただし、腕の中の空虚感に唇を少し噛んだ。
「ありがとう」坂本加奈は長く上向きのまつ毛を上げて、彼の深く黒い瞳を見つめたが、不思議な動悸とともにすぐに視線を落とした。
黒川浩二は何も言わず、地面に落ちた箱に目を向けた。箱の中身は散らばり、数冊の本も落ちていた。