第146話:「私はあなたの初恋」

坂本加奈は玄関の前に立ち、急いで入ろうとはしなかった。白い指で薄いルームカードを握りしめ、運命のように重く感じていた。

深く息を吸い、心の準備を整えてから、彼女はカードでドアを開けた。

ピッ——

ドアが開き、部屋の中は薄暗く、まるで濃い嫌悪感が漂っているかのように、むせ返るようなタバコの匂いが立ち込めていた。

坂本加奈は鼻の前で手を振ったが、効果がないのを見てあきらめた。

部屋に二歩入ると、ソファに座る男性が目に入った。うつむいた端正な顔立ちは暗闇に埋もれ、指先には燃えるタバコを挟み、赤い火が明滅し、白い煙が指先で渦を巻いていた……

普段の気品高く誇り高い様子はなく、むしろ憔悴し、疲れ果てて干上がりそうだった。

坂本加奈は心臓を掴まれたような感覚に襲われ、そっと彼の前まで歩み寄り、唇を噛んで、震える声で呼びかけた。「黒川、清……」