第146話:「私はあなたの初恋」

坂本加奈は玄関の前に立ち、急いで入ろうとはしなかった。白い指で薄いルームカードを握りしめ、運命のように重く感じていた。

深く息を吸い、心の準備を整えてから、彼女はカードでドアを開けた。

ピッ——

ドアが開き、部屋の中は薄暗く、まるで濃い嫌悪感が漂っているかのように、むせ返るようなタバコの匂いが立ち込めていた。

坂本加奈は鼻の前で手を振ったが、効果がないのを見てあきらめた。

部屋に二歩入ると、ソファに座る男性が目に入った。うつむいた端正な顔立ちは暗闇に埋もれ、指先には燃えるタバコを挟み、赤い火が明滅し、白い煙が指先で渦を巻いていた……

普段の気品高く誇り高い様子はなく、むしろ憔悴し、疲れ果てて干上がりそうだった。

坂本加奈は心臓を掴まれたような感覚に襲われ、そっと彼の前まで歩み寄り、唇を噛んで、震える声で呼びかけた。「黒川、清……」

黒川浩二は顔を上げず、肩が明らかに強張り、そしてゆっくりと顔を上げて彼女の澄んだ瞳と目が合った。明暗が交錯する瞳の奥に信じられない様子が浮かんだ……

「……加奈?」

信じられない、夢を見ているのかと疑った。

彼女は確かに墨都にいて、坂本家で、家族と過ごしているはずだった。

坂本加奈は可愛らしい笑顔を見せ、甘い声で言った。「私よ、私、坂本加奈です。」

黒川浩二の喉仏が動き、電話の時よりも更に掠れた声で尋ねた。「お前、家にいるんじゃ、なかったのか?」

坂本加奈は薔薇色の唇を緩やかに曲げ、「新年のご挨拶は、やっぱり直接言った方が意味があると思って。」

そして——

彼女は黒川浩二の前でしゃがみ、彼を見上げた。鹿のような瞳には星が輝いているかのようで、甘い声で言った。「黒川浩二、私の彼氏、新年おめでとう。」

黒川浩二の呼吸が深くなり、深い瞳の光が次第に熱を帯びていった。

胸の中で何かが激しく鼓動し、興奮と、熱情と、昂揚感が……

指先のタバコが消え、身を屈めて彼女をしっかりと抱きしめ、彼女の首筋に顔を埋めて、彼女の体温と、彼女の息遣いを感じ取り、憔悴は一掃された。

坂本加奈は彼が強く抱きしめすぎて、骨が折れそうなほどだと感じた。

でも彼女は何も言わなかった。むしろこうして抱きしめられるのが好きだった。まるで……