深木雫は水を一口飲み、コップを置くと、艶やかな唇を開いて言った。「撮影に行くのが面倒だし、それに写真より絵の方が雰囲気が出ると思うの」
この理由には反論できなかった。
坂本加奈は店内を見回して「じゃあ、どこで描けばいいかしら?」と尋ねた。
「あそこよ」深木雫はレジ台の横を指差した。「そうそう、私ずっとここに座ってなくてもいいでしょ?何時間も座ってられないわ」
坂本加奈は首を振り、自分のバッグを持ってレジ台の横に移動した。イーゼルを立てながら「好きにしていいわ、私のことは気にしないで」と言った。
これは深木雫の思い通りだった。
坂本加奈は絵を描くのに必要な道具を取り出し、適当な高さの椅子を見つけると、まず鉛筆で下書きをし、それから少しずつ色を重ねて細部を描き込んでいった。