第284章:お前とは終わらない

「何しに来たの?」彼女は我に返り、声には歓迎の色が見えなかった。

薄田正は答えず、店内を大まかに見渡してから、薄い唇を開いた。「俺から離れた後、こんなことをして過ごしていたのか?」

「そうだろうと、そうじゃなかろうと、あなたには関係ないでしょう?」深木雫は彼の投げやりな口調に隠された皮肉を感じ取り、遠慮なく言い返した。

「この前バーで会った年配の男は?」薄田正の目には嘲りが浮かんでいた。「あいつはこの程度か、まともな店舗すら借りられないなんて!」

「そうよ、あの人は貧乏よ。あなたみたいに金持ちじゃないわ、それでいい?」深木雫は彼のことが好きだった頃は、どこもかしこも素敵に見えて、イケメンで腕も立つと思っていた!

今は好きじゃなくなって、どう見ても気に入らない。黒川浩二ほどイケメンじゃないし、傲慢で、しかも生意気な口を利く!

「褒めてくれてありがとう!」薄田正は平然と彼女の嫌味を褒め言葉として受け取った。

深木雫は言葉に詰まった。本当に厚かましい奴!

「話そうか?」薄田正は時間を無駄にしたくなく、単刀直入に切り出した。

「暇じゃないわ!」深木雫は顔を背け、彼を見ようともしなかった。「商売があるの。」

「誰も客がいないのに、商売してるって?」薄田正は彼女の嘘をつく能力が上がっていると感じた。

「あの...」ずっと黙っていた坂本加奈が手を挙げた。「私は人に入らないんですか?」

薄田正はようやくイーゼルの後ろに人がいることに気付いた。それも黒川浩二の大切な人だった。

「小さな姫、どうしてここにいるの?」

「雫姉さんの絵を描くのを手伝っています。」坂本加奈は答え、二人の間で視線を行き来させた。

「彼女に姉さんと呼ばせて、黒川浩二に知られたら困らないのか?」薄田正は嘲るように言った。

深木雫はふん、と笑った。「あなたみたいに器の小さい男ばかりだと思ってるの?!」

薄田正は言葉に詰まり、深いため息をついた。「ここの香水を全部買うから、これで話してくれるか?」

深木雫は彼を横目で見た。「頭おかしい、売らないわ!」

どうしようもなく、薄田正は彼女にお手上げだった。

そのとき坂本加奈は深木雫の袖を引っ張り、小声で尋ねた。「雫姉さん、彼はとても裕福なんですか?」