「リハビリは辛すぎて、諦めたいと思ったの。でも彼は私が一生車椅子に座っているのを見たくないから、だから私にプロポーズしてくれたの!」
坂本加奈は、誰かが苦しみの渦に沈んで抜け出せないとき、手を差し伸べてくれる人がいれば、誰も断ることはできないと理解していた。
ましてやその人が黒川詩織の大好きな森口花だったのだから。
「先輩のことが好きなのは分かるけど、浩二にも彼なりの心配や懸念があるのよ」坂本加奈は手を伸ばして彼女の乱れた髪を整えながら言った。「彼のことも理解してあげて。何をするにしても、全て詩織のことを思ってのことなのだから」
黒川詩織は彼女の澄んだ瞳を見上げ、唇を噛みながらゆっくりと頷いた。
約30分後、書斎のドアが開いた。
「森口花」黒川詩織は真っ先に出てきた森口花を見つめた。
額の傷からの血が凝固したようで、真っ赤な血が彼の顔色をより一層蒼白く見せ、か弱さを感じさせた。
森口花は淡い笑みを浮かべ、自ら口を開いた。「大丈夫だよ、心配しないで」
黒川詩織は心配そうな目で彼の傷を見つめ、「痛いでしょう?病院に付き添うわ」と言った。
黒川浩二が書斎から出てきて、冷たい目で森口花を一瞥した。
「今夜はここに泊まれ。執事に傷の手当てをさせる」
黒川詩織は凍りつき、信じられない様子で彼を見つめ、「お兄様...」とつぶやいた。
黒川浩二は彼女を見ずに、優しい目で坂本加奈を見て、「おいで」と言った。
坂本加奈は立ち上がって彼の側に行き、おとなしく彼と共に書斎に入った。
「お兄様、承諾してくれたの?」黒川詩織は夢を見ているような気分で、お兄様が承諾したことが信じられなかった。
森口花は彼女の頭を撫でながら、口元に笑みを浮かべて言った。「お兄様は本当に詩織のことを大切に思っているんだよ」
「よかった」黒川詩織は嬉しさのあまり彼に抱きつき、頬を彼の腹部に押し付けた。「やっと私たち一緒になれるのね」
彼は軽く「うん」と返事をしたが、黒川詩織が俯いていたため、彼の瞳に一瞬よぎった深い意味を持つ表情に気付かなかった。
***
黒川詩織が帰ってきたおかげで、坂本加奈も毎日黒川浩二にべったりというわけではなくなり、黒川詩織と過ごすことができるようになった。
黒川詩織は海外からお土産を持ってきてくれた。