第307章:あの夢を見る

黒川浩二は腕の痛みを感じ、白川櫻を見上げると、その眼差しは鋭利だった。

白川櫻は心臓が震え、躊躇することなく即座に薬液を注入しようとした。

彼は我に返り、白川櫻を突き飛ばした。

白川櫻はロングブーツを履いていたため、バランスを崩して地面に倒れ込み、注射器は彼の筋肉に刺さったままだった。

黒川浩二は注射器を引き抜いたが、中の薬液は半分ほど注入されており、凛とした顔立ちは氷のように砕け散っていった。

「何を注射した?」薄い唇が開き、地獄から響くような冷たい声が漏れた。

白川櫻は彼を見上げ、真っ赤な唇に笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がって服の埃を払った。

「どう思う?」

黒川浩二は眉をきつく寄せて黙り込んだが、すぐに目まいを感じ始め、目の前の景色が徐々にぼやけていった。

彼は頭を振り、必死に意識を保とうとした。

強い意志も薬物の効果には勝てず、「ドン」という音と共に激しく地面に倒れ込んだ。

白川櫻は彼を軽く蹴ったが、何の反応もなかった。

西村美香が言っていた通り、この薬は効果が強く、即効性があるんだわね。

暗雲が空一面に広がり、いつの間にか細かい雨粒が降り始め、黒いコートの上で無数の透明な水滴が揺れていた。

白川櫻は陰鬱な表情で、写真の男を見つめ、赤い唇に冷笑を浮かべた。

「私を責めないで。あの時、あなたが優しすぎなければ、美月は死ななかったし、私もこんなに長く苦しむことはなかったのよ。」

小雨は次第に土砂降りとなり、すぐに黒川浩二の服を濡らしてしまった。

顔の血痕は大雨に洗い流され、紙のように青白い顔色で、弱々しく悲しげな様子だった。

彼の人生では幾度となく選択を迫られてきたが、彼が選ばれる側になることは一度もなかった。

***

「浩二……」

坂本加奈は悪夢から目覚め、蒼白い頬に汗を滲ませ、息を切らしながら、起き上がるなり外に走り出そうとした。

激しい目まいと共に、目の前の景色が徐々に暗くなり、強い吐き気を感じた。

「ドン」という音と共に、床に倒れ込んだ。

膝が床に強く打ち付けられ、心を刺すような痛みが走った。

また、あの夢を見たのだ。

浩二が部屋に閉じ込められ、手足を拘束されている夢。

外には白川櫻と見知らぬ女性たちが立っており、彼女たちは浩二に何かをしようとしていた。