黒川浩二が病室に戻ったとき、坂本加奈はすでに食事を済ませ、ベッドから降りて片付けをしていた。
黒川浩二は病室の入り口に立ち、漆黒の瞳は深淵のように底知れず、光も温もりもなかった。
坂本加奈は何かを感じ取ったように振り返り、彼を見て微笑んだ。「お帰りなさい」
黒川浩二は我に返り、瞳の奥に一瞬よぎった暗い色を隠し、軽く「うん」と返事をして、検査結果を置き、彼女の手から物を受け取った。
「私がやるから、横になっていて」
「背中の痛みがだいぶ和らいできたの。ずっと横になってるのは辛いわ」
坂本加奈は輝く瞳で期待を込めて彼を見つめた。「退院できるでしょう?」
彼女は自分の状態が良くなったと感じていた。
黒川浩二は残りの食事を捨て、お椀を洗いに持っていきながら、「そんなに退院したいのか?」と尋ねた。
坂本加奈はキッチンの入り口に寄りかかり、急いで頷いた。「入院生活は退屈だし、本当に背中もそれほど痛くないの」
黒川浩二は彼女の方を振り向かず、お椀を洗いながら答えた。「後で退院手続きを頼んでおく」
「やった!」坂本加奈は嬉しさのあまり飛び跳ねそうになったが、背中に痛みが走り、すぐに動きを抑えた。
黒川浩二の凛とした後ろ姿を見つめながら、彼が考えを変えることを恐れるかのように急いで付け加えた。「着替えてきます」
蛇口の下で洗い物をしていた手が突然止まり、彼は細くて喜びに満ちた後ろ姿を振り返って見つめた。墨のような瞳には悲しみと寂しさが満ちていた。
***
黒川浩二は坂本加奈の退院に同意したものの、月見荘に戻ってからも彼女をベッドから出さず、安静にさせた。
坂本加奈は抵抗しようとした。「本当に大丈夫なの。激しい動きさえしなければ、痛くないわ」
黒川浩二は表情を変えず、一切の妥協を許さない口調で言った。「ベッドで安静にするか、それとも母に来てもらって看病してもらうか、どちらかだ」
坂本加奈はすぐに諦めた。
両親に心配をかけたくなかったのだ。
幸い、うつ伏せになったり、起き上がったりすることはできた。ずっとうつ伏せも辛かったから。
黒川浩二は彼女の留学に反対していたが、以前彼女が持ち帰った申請書類は執事がベッドサイドに置いており、黒川浩二はそれを見ても捨てず、見なかったことにしていた。