黒川浩二が病室に戻ったとき、坂本加奈はすでに食事を済ませ、ベッドから降りて片付けをしていた。
黒川浩二は病室の入り口に立ち、漆黒の瞳は深淵のように底知れず、光も温もりもなかった。
坂本加奈は何かを感じ取ったように振り返り、彼を見て微笑んだ。「お帰りなさい」
黒川浩二は我に返り、瞳の奥に一瞬よぎった暗い色を隠し、軽く「うん」と返事をして、検査結果を置き、彼女の手から物を受け取った。
「私がやるから、横になっていて」
「背中の痛みがだいぶ和らいできたの。ずっと横になってるのは辛いわ」
坂本加奈は輝く瞳で期待を込めて彼を見つめた。「退院できるでしょう?」
彼女は自分の状態が良くなったと感じていた。
黒川浩二は残りの食事を捨て、お椀を洗いに持っていきながら、「そんなに退院したいのか?」と尋ねた。