第362章：あなたを愛してる、とても愛してる

坂本加奈は頭がぼんやりとしていたが、黒川浩二の抱擁の温もりで徐々に現実を感じ始めた。

自分は...現実に戻ってきたの？

力のない両手がゆっくりと上がり、恐る恐る、ゆっくりと彼を抱きしめた瞬間、涙が溢れ出した。

夢じゃない、本当に夢じゃない、本当に浩二を抱きしめることができた。

やっと、しっかりと彼を抱きしめることができた。

涙が止めどなく溢れ出し、かすれた声が柳の綿毛のように軽やかに...

「浩二、浩二...」

「ここにいるよ」黒川浩二は涙声で答えた。「ずっとここにいる。怖がらなくていい！大丈夫だ、もう誰も君を傷つけることはできない」

坂本加奈が泣いているのは、怖いからでも、傷つけられたからでもない。夢の中で見た彼の経験に心を痛めているからだった。

これまでの年月、彼はどうやって乗り越えてきたのだろう？

彼が受けた辛い思いや傷、長年の孤独と心の苦しみ、全て一人で耐えてきた彼は、どうやって耐えられたのだろう！

坂本加奈は激しく泣きすぎて、息ができなくなり、目の前の景色がぼやけ始めた。

黒川浩二は彼女の異変に気づき、すぐに言った。「藤沢、医者を呼んでくれ」

喜びに浸っていた藤沢蒼汰は遅れて反応し、「はい！すぐに...」

医者は坂本加奈が目覚めたことを知り、同じく喜びの表情を浮かべながら、前に出て彼女の身体検査を始めた。看護師は傍らで彼女を慰め、そんなに興奮しないように諭した。

坂本加奈は目が小うさぎのように赤くなり、涙目で黒川浩二を見つめていた。

本来なら医者は他の人に退室を求めるところだったが、彼女のその様子を見て、黒川浩二だけを残し、他の人には退室してもらうしかなかった。

30分後、医者は聴診器を片付けながら黒川浩二に言った。「おめでとうございます、黒川さん。黒川奥様は目覚められ、今のところ大きな問題はないようです」

黒川浩二は心配そうに、厳しい表情で尋ねた。「もう再び昏睡状態になることはないんですか？」

医者は首を振った。「ないでしょう、ご安心ください」

医者の答えで、黒川浩二の宙に浮いていた心がようやく地に足をつけることができた。彼はベッドの傍らに座り、彼女の冷たい小さな手をしっかりと握った。「医者が大丈夫だと言っているから、心配しないで」

彼は坂本加奈が再び昏睡状態になることを心配していると思っていた。