第368話:後悔する方が犬

薄田正の顔色が一瞬暗くなり、理解に苦しむように尋ねた。「なぜそんなにも一枚の紙にこだわるんだ?その紙がそんなに重要なのか?その紙があれば、俺がお前を死ぬほど愛していることを証明できるのか?」

深木雫は一瞬、失望なのか安堵なのか分からない感情に襲われ、赤い唇を軽く歪めた。「うん、とても重要よ!その紙は、あなたの愛を証明できないかもしれない。でも、一枚の紙さえくれないってことは、あなたの私への気持ちが何の価値もないってことを証明してるわ!」

「俺の愛でも駄目なのか?」薄田正の声が喉から絞り出されるように聞こえた。

深木雫は首を振った。「その手の言い訳は他の女の子にでも使ってよ。もう付き合ってられないわ!」

全ての感情には帰属先が必要だ。でも薄田正の感情は、海に浮かぶ一枚の葉のように、永遠に風に流され、対岸には辿り着けない。