中谷仁と坂本加奈は黒川浩二に挨拶をして座り、スーツのボタンを外して隣の椅子の背もたれに掛けた。
黒川浩二もそれを見てボタンを外し、上着を脱いだだけでなく、袖のボタンも外し始めた。その動作は極めてゆっくりで、長く美しい指が印象的だった。特に結婚指輪のダイヤモンドが輝いていて、薄田正と中谷仁が見ないわけにはいかなかった。
中谷仁は目を光らせ、グラスを持ち上げて酒を飲んだ。
薄田正は眉を上げて、「おや、そりゃすごいダイヤモンドリングだな!」
黒川浩二は落ち着いて手を下ろし、さらりと言った。「妻からの贈り物です。彼女がデザインしたものです。」
坂本真理子は思わず目を白黒させた。
このクソ野郎、また始まった!
薄田正は言葉に詰まり、余計なことを言わなければよかったと思いながら、中谷仁に愚痴った。「源太郎、見てくれよ。奥さんがいない時は死んだ犬みたいなのに、奥さんが帰ってくるとたちまち俺たち独身を虐めやがる!」