中谷仁と坂本加奈は黒川浩二に挨拶をして座り、スーツのボタンを外して隣の椅子の背もたれに掛けた。
黒川浩二もそれを見てボタンを外し、上着を脱いだだけでなく、袖のボタンも外し始めた。その動作は極めてゆっくりで、長く美しい指が印象的だった。特に結婚指輪のダイヤモンドが輝いていて、薄田正と中谷仁が見ないわけにはいかなかった。
中谷仁は目を光らせ、グラスを持ち上げて酒を飲んだ。
薄田正は眉を上げて、「おや、そりゃすごいダイヤモンドリングだな!」
黒川浩二は落ち着いて手を下ろし、さらりと言った。「妻からの贈り物です。彼女がデザインしたものです。」
坂本真理子は思わず目を白黒させた。
このクソ野郎、また始まった!
薄田正は言葉に詰まり、余計なことを言わなければよかったと思いながら、中谷仁に愚痴った。「源太郎、見てくれよ。奥さんがいない時は死んだ犬みたいなのに、奥さんが帰ってくるとたちまち俺たち独身を虐めやがる!」
中谷仁は軽く笑って、「本当にボタンを外したかったと思う?」
薄田正は一瞬固まり、理解すると思わず唾を吐いた。「厚かましい。」
黒川浩二は平然とグラスを持ち上げて酒を飲み、一言。
「嫉妬は人を醜くする。」
薄田正:「……」
厚かましい奴は見たことあるが、ここまでの奴は初めてだ!
「加奈ちゃん、あいつを制御しないの?」
坂本加奈は男たちの幼稚な言い合いには加わらず、「トイレに行ってきます。」
黒川浩二は眉を上げ、「一緒に行きましょう。」
「結構です。」坂本加奈は立ち上がってトイレの方向へ歩いて行った。
黒川浩二は心配そうに、彼女の後ろ姿を愛おしそうに見つめ続けた。
薄田正は諦めたように溜息をつき、「もういいって。ここは俺の店だから逃げられないよ!独身の俺たちにも少しは生きる道を残してくれよ!」
彼女の姿が視界から消えると、黒川浩二は視線を戻し、薄田正を冷ややかに一瞥したが、何も言わなかった。
奥さんがいないとこの死んだような表情、薄田正はもう相手にする気も失せた。
坂本加奈がトイレから戻ってくると、男たちは既に話題を変えていた。
坂本加奈が座ると、黒川浩二は彼女にジュースを差し出し、可愛らしい小さなケーキも添えた。