「この子は中谷社長の息子で、加奈の義理の息子よ」佐藤薫は簡潔に答えた。
林優香は理解したように頷き、視線を坂本真理子の腕の中の小さな子供に向けた。
坂本真理子は彼の鼻をつまんで、「何が食べたい?私が奢るよ」と言った。
中谷陸人は沢山の注文を挙げ、明らかによく食べていた。
坂本真理子は彼を抱きながら立ち上がり、佐藤薫を見上げて「あなたは?」と聞いた。
「結構です、ありがとう」佐藤薫は子供ではないので、ケンタッキーにそれほど執着はなかった。
坂本真理子が中谷陸人を抱いてレジに向かうと、林優香は佐藤薫を自分の隣に座るよう招いた。
「どうしてここにいるの?」今時の大学生はもうここでデートしないのに、まして彼らは。
「午後にここでクライアントと会う約束があって、彼は仕事が終わってから私を探しに来たの」林優香は答え、パソコンを閉じて、「夜一緒に食事でもどう?」と尋ねた。
「いいえ」佐藤薫は彼女の誘いを丁寧に断った。「この後、中谷陸人を送らないといけないので」
何より、二人のデートに電球役で行くわけにはいかない。
林優香は彼女が断るのを見て、それ以上は強要せず、レジの方向を横目で見た。
坂本真理子は口では中谷陸人を嫌がっていたが、注文する時は全く吝かではなく、中谷陸人がアイスクリームを二つ注文しようとした時は、きっぱりと断った。
「そんなに冷たいものを食べたら、家に帰って腹痛で泣くぞ」
坂本真理子がトレーを持つ必要があったため、中谷陸人は自分で歩いて戻ってきた。
中谷陸人は椅子に座って美味しそうに食べ、彼らが何をしているかなど気にしていなかった。
佐藤薫は彼の隣に座り、時々林優香と坂本真理子を見やった。二人は隣同士に座っているのに、全く会話もなく、カップルらしい雰囲気も全くなかった。
林優香のコーヒーはもう空になっているのに、坂本真理子は新しいのを注文してあげようともしなかった。
佐藤薫は、このままではすぐに振られるだろうと思い、目配せで合図を送った。
坂本真理子は気付かず、典型的な鈍感な男の口調で「目が痙攣してるのか?」と言った。
佐藤薫:「……」
一生独身でいればいいわ、このバカ鹿!!
「優香、何か飲み物が欲しい?」佐藤薫は彼に手本を見せることにした。「私が買ってくるわ」