佐藤薫は即座に首を振って否定した。「ありがとうございます、中谷社長。必ず頑張って働きます。ご期待に添えるように努めます」
「私に感謝する必要はない。君の実力だよ」中谷潤は話題を仕事に移し、彼女に仕事の指示を出した。
佐藤薫は仕事に戻り、自分の席に着くと大きな花束が目に入った。同僚たちの好奇の目も感じ、思わず眉間を押さえた。
一体誰がこんな野暮ったい、大きなバラの花束を送ってきたのだろう。ドラマの撮影でもしているのだろうか?
彼女が座ったばかりの時、携帯が振動し始めた。
坂本真理子からの電話だった。佐藤薫は画面を見た瞬間、驚いて携帯を落としそうになった。
どうして私をブロックしていないの?それどころか電話までしてくるなんて。
電話は鳴り続け、周りはみんな仕事中だったので、彼女は立ち上がって給湯室に向かい、そこで電話に出た。
「花は届いた?」電話の向こうから男の笑みを含んだ声が聞こえた。
佐藤薫は驚き、信じられない様子で言った。「その花、あなたが送ったの?」
「他に誰がいる?」坂本真理子の声が沈んだ。「まさか他に君を追いかけている男がいるとか?」
「いいえ」佐藤薫は否定し、少し間を置いて気づいたように言った。「違うわ、なぜ私に花を送るの?」
「なぜって他に理由があるかい?」電話越しの男の声は軽やかだった。「君に求愛しているんだよ、佐藤薫」
佐藤薫は自分の鼓膜が震えているのを感じ、深いため息をついた。「もう冗談はやめてください。坂本副社長、坂本坊ちゃま、坂本おじさまと呼んでもいいですから」
「吉田美佳でいいよ。関口兄さんでも、関口兄さんでもいい」坂本真理子は言いながら低く笑った。「佐藤薫、この数日間よく考えた...君は今は私のことが好きじゃないだけで、将来好きにならない理由はない。だから決めたんだ...」
「何を決めたの?」佐藤薫は本能的に、この決定が良いものではないと感じた。
「君を追いかけることに決めた」坂本真理子の軽薄な口調には、以前にはなかった真剣さが混じっていた。「君が私のことを好きになるまでね」
「...」佐藤薫は携帯を握る手に力が入った。
私はあなたを好きになる必要なんてない。もうとっくにあなたを諦めたから。