「末期がんなのに、野本寛治が生きていたとしても、どうすることもできないでしょう?」
彼女は苦笑いしながら手の中の瓶を握りしめた。「きっと海外のあらゆる専門医に診てもらった上で、帰国を決めたのよ」
海外の進んだ医療でも手の施しようがないのに、国内の専門医にできることなんてあるはずがない。
坂本真理子は彼女の悲しそうな様子を見て、胸に大きな石が乗っているかのように息苦しくなった。
佐藤薫はもう十代の子供ではない。一時的に悲しみと苦しみで冷静さを失っても、すぐに立ち直れるはずだ。
彼女は携帯を取り出して中谷仁に電話をかけた。「中谷社長、家の事情で長期休暇をいただきたいのですが」
「いいえ、ありがとうございます...はい、分かりました」
休暇の申請を済ませると、彼女は立ち上がり、彼を見下ろして言った。「この間、両親の面倒を見てくださってありがとうございました」