佐藤薫はちょうどお風呂を済ませ、パジャマ姿で、髪の毛の水も拭き取らないまま、まだ水が滴り落ちている状態で、アーモンド形の瞳には疑問を浮かべながら彼とスーツケースを見つめていた。
坂本真理子は表情を引き締めて、「母さんが、お義父さんが入院したから、家に男がいないとダメだって」と言った。
そういうわけで、彼は実の母親に家を追い出されたのだ。
佐藤薫は一瞬黙り込んで、提案を試みた。「ゲストルームを用意しましょうか?」
坂本真理子は顔を上げて彼女を睨みつけた。「私たちが偽装結婚だってことをお母さんにバレたいの?」
お母さん?佐藤薫は口角を少し引きつらせて、「でも...」
「でもも何もない」坂本真理子はスーツケースを横に放り投げ、ベッドの端に腰を下ろした。「ベッドがないなら布団くらいあるでしょう。床に敷いて寝るから。あなたと同じベッドで寝たいなんて思ってないから」
佐藤薫は俯いて考え込んだ。確かに、他に良い方法はなさそうだった。
幸い今は夏だから、床で寝ても寒くないし、クローゼットには布団もある。
彼女はクローゼットを開け、つま先立ちして上の棚に詰め込まれた布団を取ろうとしたが、身長が足りず、なかなか取れなかった。
坂本真理子は見かねて立ち上がり、彼女の後ろに立って、長い腕を彼女の背後から伸ばし、彼女が届かなかった布団を簡単に取り出した。
後ろの男性から漂う淡いタバコの香りと生来のフェロモンが佐藤薫を包み込んだ。
細い体は思わず緊張して硬直し、動けなくなり、振り返って彼を見ることさえできなかった。二人の体が触れ合うことを恐れていた。
坂本真理子は布団を下ろし、彼女の露出した白い首筋に視線を走らせ、喉が無意識に引き締まった。
素早く目を伏せ、布団をベッドの上に置いた。
佐藤薫はその強い存在感が離れていくのを感じ、ようやくゆっくりと振り返り、伏せた目は布団に落ちた。
前に進んで布団を抱え上げ、床に広げた。「ここでいいですか?」
布団は窓際に敷かれ、こうすれば夜中にトイレに行くときも彼を踏まないですむ。
坂本真理子は低く「うん」と返事をし、目を伏せると彼女の細い手足、美しい白鳥のような首が目の前でちらついて、喉が渇くような感覚に襲われた。
「私がやるから、髪を乾かしてきて」
彼は佐藤薫の腕を掴んで立ち上がらせた。