佐藤薫は浴室のドアの前に立ち、唇を噛みながらしばらく考えた末、やはり彼にはっきりと言うべきだと思った。
結局同じ屋根の下で暮らすことになるのだから、はっきりさせておかないと、これからもっと気まずい思いをすることになる。
坂本真理子が洗面所から出てくると、彼女が壁にぴったりとくっついて、小さな頭を垂れて何かを考え込んでいるのが目に入った。
「使い終わったよ、どうぞ」
そう言って、服を取りに衣装ケースの方へ向かった。
「あの……」佐藤薫は彼を呼び止めたものの、言葉を詰まらせた。
「どうした?」坂本真理子は眉をひそめて尋ねた。
佐藤薫は密かに深呼吸をして、言葉を選びながら話し始めた。「あなたの気持ちは尊重します。でも、一人の男性として、最低限の自制心は持つべきだと思います。確かに私たち結婚証明書は持っていますが、本当の夫婦ではありません。私に対して……えっと…」
後の言葉があまりにも恥ずかしくて、口に出せなかった。
坂本真理子は少し躊躇してから、彼女の言葉の意味を理解し、思わず目を回した。
「佐藤薫、学校で生物の授業を受けなかったの?」
「え?」
「もう一度生物の授業を受けることをお勧めするよ。成熟した男性にとって朝立ちは正常な生理現応だということを知らないの?病気でもない限りね」
坂本真理子は彼女を横目で見て、さらに冷ややかに毒舌を放った。「君はビアグラじゃないんだから、見ただけで反応するわけないだろう」
佐藤薫:「……」
***
朝の気まずい出来事のせいで、朝食時の雰囲気もとても気まずくなった。
二人は向かい合って座り、誰も話さず、ダイニングには時々食器が触れ合う音だけが響いていた。
朝食を済ませると、坂本真理子は出勤し、佐藤薫は朝食を持って病院へ向かった。
佐藤のお父さんは病気で食欲がなく、目に見えて痩せていた。佐藤のお母さんも同様だった。
朝食を済ませた後、佐藤のお父さんは佐藤薫を自分のベッドの側に座らせ、こう言った。「お母さんと相談したんだが、どうせこの病気は治らないんだから、病院で死を待つより、お前とお母さんに負担をかけるよりも、家に帰って、家族で一緒に過ごす時間を大切にしたい」
「お父さん」佐藤薫は彼の意図を察し、表情が一気に暗くなった。「反対です」