第511話:「泣きたいなら泣けばいい、俺がいるから」

坂本真理子は慎重に手を伸ばし、彼女の頬に張り付いた髪をそっと払いのけ、優しく頬の涙を拭い去った。

言葉での慰めは一切なく、ただ彼女の背中を優しく撫で、温かい手のひらが温もりを伝え、無言の力で彼女を慰めていた。

佐藤薫は頭を下げ、額を彼の胸に押し付け、涙がぽたぽたと止まらずに落ちていった。

彼女は父の状態が悪化していることも、父が何故あえて家に帰りたがり、自分で仕事に行きたがるのかも分かっていた。

すべてを知っているからこそ、彼らの前では何も表に出せず、だから深夜になってようやく感情の崩壊を許すのだった。

坂本真理子は腕の中の彼女が、震える野良うさぎのように、心を揺さぶられるのを感じた。

思わず心配になり、彼女の髪に口づけをして、かすれた声で言った。「泣きたいだけ泣けばいい。俺がついている」

佐藤薫は両手で彼の腕をきつく掴み、涙で彼のパジャマを濡らすままにした。

坂本真理子は彼女を抱きしめ、何度も何度も彼女の髪に優しく口づけた。

どれくらい時間が経ったのか分からないが、佐藤薫の涙はようやく止まった。しかし坂本真理子のパジャマは彼女のせいでひどい有様になっていた。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃに皺くちゃになっていた。

佐藤薫は鼻をすすり、かすれた声で謝った。「ごめんなさい」

「謝ることないよ、パジャマ一枚じゃないか」坂本真理子はパジャマを脱いで床に投げ捨て、胸を露わにした。「ちょうどいい機会だ。本物の男がどんなものか見せてやる。八つパック!」

佐藤薫は彼を横目で見て、思わず笑ってしまった。

坂本真理子は手を伸ばして彼女の頬をつまんだ。「やっと笑ってくれた。泣き顔超ブサイクだったぞ」

佐藤薫は手を上げて彼の手を払いのけた。「早く服を着なさい。恥ずかしくないの?」

「誰が恥ずかしくないって?朝に俺の銃を覗き見してたのは誰だ」

佐藤薫:「どんな銃?」

坂本真理子は顎を上げ、誇らしげな表情で黙っていた。

佐藤薫は後になって気づき、彼をベッドから蹴り落とした。「坂本真理子、この変態!」

坂本真理子はドスンと床に落ちたが、床に布団が敷いてあったので、それほど痛くなかった。彼は寝そべったまま動かず、むしろ両手を首の後ろに組んだ。

「恩を仇で返すとはな」