第512章:見逃した景色はまだそこにあるかもしれない

予感はしていたものの、実際にその知らせを耳にした時、佐藤薫の体は明らかに固まり、まるで支えを失ったかのように崩れ落ちそうになった。

坂本真理子は素早く後ろから彼女を支え、心配そうな低い声で「薫...」と呼びかけた。

佐藤薫は顔色が蒼白で、頭の中が鳴り響き、母親を見上げた。歯で唇を強く噛み、血が出るほどだったが、一言も発しなかった。

佐藤のお母さんは冷静な様子で、むしろ微笑んで娘を慰めた。「お父さんは安らかに逝ったのよ。苦しむことはなかった。私たちは喜んであげるべきよ。」

もう病魔に苦しむことはないのだから。

佐藤薫はまだ何も言わず、ただ横を向いて目を伏せ、瞳の奥に押し寄せる悲しみを隠した。

...

佐藤薫は坂本真理子が予想したような取り乱し方はしなかった。

冷静に母親の手伝いをし、父の後事を処理し、親戚や友人に連絡を取り、葬儀の段取りをすべて整えた。