これからは海野先生に注射される必要がなくなり、黒川詩織は気分が良かったので、家に帰らずに直接会社へ向かった。
森口花はオフィスで幹部たちと仕事の打ち合わせをしていて、彼女は外で待っていた。
幹部たちが次々と出てきたが、黒川詩織は積極的に中に入ろうとはしなかった。彼の仕事の邪魔をしたくなかったからだ。
内田須美子がオフィスのドアまで来て、ノックをして知らせた。「森口社長、黒川お嬢様が外でずっとお待ちです」
森口花はすぐに手元の書類を置き、大股で歩いてオフィスを出た。黒川詩織を見ると、目に優しさと笑みが浮かんだ。
「どうして突然来たの?来たのに入ってこないなんて」
黒川詩織は顔を上げて彼を見つめ、愛らしい顔に笑みを浮かべながら、まだ傍に立っている内田須美子を見て、「お仕事の邪魔をしたくなかったから」
森口花は何かを悟り、横を向いて内田須美子に言った。「仕事に戻りなさい。ここはもう大丈夫だから」
「はい、わかりました」気づくのが遅かった内田須美子は慌てて好奇心に満ちた視線を引き、身を翻して去っていった。
自分が解雇されるのがまた一歩近づいたような気がした。
内田須美子が去ると、黒川詩織はようやく両腕を広げ、甘えた声で言った。「会いたかった……」
森口花はすぐに身を屈めて彼女を抱きしめ、首筋にキスをして「僕も会いたかった」
二人は熱愛中の恋人同士のように、しっかりと抱き合っていた。
しばらく抱き合った後、森口花は彼女を放し、「夜は何が食べたい?」
「うーん……」彼女は首を傾げて長い間考え、笑いながら首を振った。「わからない」
森口花は彼女の前にしゃがみ、柔らかく無邪気な手を握ってゆっくりと揺らした。「まだ少し仕事の片付けがあるんだ。僕が仕事を終わらせる間に、夜何を食べるか考えてくれない?」
「うん」黒川詩織はすぐに承諾した。
森口花は立ち上がって彼女を自分のオフィスに連れて行き、水を注いでから、自分の席に戻って仕事を続けた。
黒川詩織は携帯を取り出し、最近オープンした評判の良い店を検索し始めた。
森口花は書類を手に取って開いたが、思わず彼女に目を向けてしまう。
窓からの陽光が彼女の髪に降り注ぎ、金色の粉を振りかけたように輝いていた。可愛らしい顔は集中していて、どこか愛らしさも漂わせていた。