黒川詩織はちらりと見て、確かに薄田正からのメッセージだったが、ただ軽く「行かない」と言っただけで、それ以上は何も言わなかった。
森口花は携帯を置いて、何気なく言った。「そうだ、携帯のパスワード変えたんだけど、何だと思う?」
「何?」誕生日でもない、記念日でもない、全く見当がつかなかった。
森口花は彼女の隣に横たわり、艶やかな唇に笑みを浮かべて言った。「9257」
黒川詩織は困惑した表情で、その意味が分からなかった。
森口花は彼女の鼻先に近づいてキスをし、「妻を愛す、ただ妻のみを愛す」
黒川詩織の心がとろけ、目に笑みが浮かんだが、唇の端は必死に抑えていた。
「まだ寝る?」彼が尋ねた。
黒川詩織は頷いた。他に何があるというの?
「ただ寝るだけ?」
黒川詩織は恥ずかしそうに彼を軽く殴り、「寝るの」
体を反転させて無視した。
森口花は後ろから彼女を抱きしめ、首筋にキスをして、「詩織、おやすみ」
低くかすれた声は甘美さに満ち、温かい息が彼女の肌に吹きかかり、羽毛が優しく撫でるよう。
黒川詩織はもう眠れそうになく、声も自然と柔らかくなった。「やめて...」
森口花は身を起こして彼女の紅い唇にキスをし、指で頬を優しく撫でながら、「うん、やめる。真面目なことをしよう」
黒川詩織:「...」
これのどこが真面目なの、全然真面目じゃない。
窓の外から雨音が聞こえ始め、次第に強くなり、部屋の中の音を覆い隠した。
雨は一晩中降り続け、溢れ出る愛のように...
***
翌日の夜、森口花はブルームーンでの約束に向かう前に、もう一度黒川詩織に一緒に行かないかと尋ねた。
黒川詩織は少し考えて首を振った。ブルームーンを思い出すと、自分の恐ろしい三杯で酔っ払う酒量を思い出し、その黒歴史に向き合いたくなかった。
森口花は彼女の額にキスをして、「早く帰ってくるよ」
「薄田正たちとの集まりも久しぶりでしょう。ゆっくりしていってもいいわよ」黒川詩織は寛容に言った。
彼女はもともと狭量な女性ではなく、ただ以前の出来事で、少し不安になり、疑心暗鬼になっていただけだった。
「森口奥様は本当に優しくて寛容だね」森口花は彼女を褒めた。
黒川詩織は顎を上げ、得意げで誇らしげな表情を見せた。「当たり前よ」