黒川詩織は息を呑み、心臓が何度も跳ねそうになった。歯で薄紅色の唇を軽く噛み、ゆっくりと頭を下げた。
森口花は彼女が恥ずかしがっているのを知っていて、頭を下げて唇が彼女の耳にほぼ触れそうになった。
「詩織、昨夜は僕を気持ちよくしてくれたね。僕も詩織を気持ちよくさせられたかな?」
黒川詩織は頭を布団に埋めそうになった。「もう言わないで……」
森口花は喉から愉悦の笑みを漏らし、手を伸ばして彼女を抱きしめ、愛おしそうに頬にキスをした。「詩織、やっと僕のものになったね」
完全に彼のもの、正式な森口奥様として。
黒川詩織は心の中で後悔していた。酔った勢いで体を許してしまい、彼の言葉に気付かなかったことを。
昨夜が終わった後、森口花は簡単に彼女の体を拭いただけだったので、朝になって黒川詩織はシャワーを浴びたかった。
森口花はすぐに布団をめくって彼女を抱き上げ、浴室へ向かった。
黒川詩織は顔を覆い、人に会わせる顔がなかった。
「詩織、恥ずかしがることないよ。私たちは夫婦なんだから、もう何も隠すことはないよ」
森口花は彼女を浴室に連れて行くだけでなく、自ら彼女を洗ってあげた。
初めての愛の味を知り、その味を覚えてしまうと、自制が効かなくなり、浴室でまた一騒ぎとなった。
黒川詩織は涙を流すまで責められ、やっと彼は止め、何度もキスをしながらなだめすかして、ようやく機嫌を直してくれた。
日中も森口花は会社に行かず、家で黒川詩織と過ごした。昨夜激しく求めたので、彼女の具合が悪くならないか心配で、わざわざ薬局に軟膏を買いに行った。
しかし黒川詩織は恥ずかしがり屋で、どうしても薬を塗らせてくれなかった。
男女の心と体の交わりは、感情を深める最も早い方法で、これに勝るものはない。
森口花はそれまで禁欲的だったが、一度欲望の扉が開かれると、決壊した堤防のような勢いで止まらなくなった。
黒川詩織は最初は抵抗できていたが、後には彼の甘い言葉と強引な攻めに抗えなくなった。「詩織」という優しく愛おしげな呼び方は、まるで人の心を惑わす妖狐のようだった。
森口花は二度と松岡菜穂のことを口にせず、夜遅くまで帰らないこともなくなった。接待で遅くなる時も、黒川詩織にビデオ通話をして見せていた。