第551章：不甘

黒川詩織の心は突然震え、彼の目を見上げた。

煙越しでも、その目の奥に秘められた深い愛情と熱意は隠せなかった。

「詩織、君に好かれて、どれほど嬉しいか分からないけど...」言葉を途切れさせ、寂しげな様子で続けた。「僕たちは雲泥の差があって、いつか君の気持ちを失うのが怖いんだ。」

「私はあなたの家柄なんて気にしたことないわ」黒川詩織は静かに言った。「そうでなければ、最初からあなたと結婚しなかったわ。」

彼女にとって、誰かを好きになるとき、その人自身が一番大切なのだ。

「分かってる」森口花は俯いて軽くため息をついた。「君がそう言えば言うほど、僕は君に相応しくないと感じる。君に何を与えられるのか分からなくなる。」

「詩織、君は僕が君を好きじゃないと思ってる...でも、好きじゃないのに、なぜ君と結婚したと思う？」

森口花は顔を上げ、優しい目で深い愛情を込めて言った。「誰が罪悪感と償いのために、自分の感情と結婚生活を犠牲にするだろう？」

黒川詩織は言葉に詰まり、指先で服をつまみながら黙り込んだ。

森口花は薄い唇を開いた。「今日、両親の前で、はっきりと君に伝えたい。君と結婚したのは、君と一緒にいたかったから。君を手に入れたかったからだ。」

「詩織、離婚しないでくれないか？前のことは僕が悪かった。直すから、もう一度チャンスをくれないか？」

黒川詩織は唇を噛みしめ、なかなか言葉を発せず、額から汗が流れ落ちた。

森口花は立ち上がって近寄り、ポケットからウェットティッシュを取り出し、かがんで優しく彼女の汗を拭いてあげた。

「急いで答える必要はないよ。ゆっくり考えて。僕は待つから、どれだけ時間がかかってもいい。」

天気はますます暑くなり、二人とも汗で服が濡れていた。森口花は両親への線香を焚き終え、火を完全に消すと、黒川詩織を背負って山を下りた。

実は黒川詩織は今では少しは歩けるようになっていたが、どういうわけか、そのことを森口花に告げず、彼に背負われたまま山を下り、家まで帰った。

汗が雨のように流れ、息も切れていた。

家に着くと、森口花はまず黒川詩織にお風呂に入って着替えるよう促し、自身はシャツを脱ぎ、庭の水道の前に立ってタオルで体の汗を拭いた。