沢井千惠は目の前の白髪の母親を見つめながら、四十八年の朝夕の付き合いを思い返した。親のない孤児だった彼女にとって、沢井家はずっと大切な存在だった。
しかし、今は決別の時だと彼女は分かっていた。
もし今決別しなければ、沢井奥さんは次に佐藤家に直接協力を求めに行くかもしれない。そうなれば、佐藤さんが承諾すれば橘さんが恥をかき、断れば橘さんが困ることになる。
沢井奥さんは彼女が黙ったままなのを見て、辛抱強く言った。「千恵、私が求めているのはそう多くないのよ。Zグループとの協力を取り付けるか、佐藤家との協力を得るか、どちらかよ。あなたが言いにくいなら、私が話しに行くわ…」
やはりそうだった。
沢井千惠は突然笑った。
「千恵、分かってくれたの?そうよ、母と娘なのに、どうしてこんなに他人行儀なの?Zグループでも佐藤家でも、私たちが求める程度の協力なんて、彼らにとっては些細なことよ…」