第270章 彼の優勝を見届ける

この二日間、五十嵐孝雄は家の琴房で練習を続けていた。

家族の誰も彼の邪魔をしなかった。

音楽祭当日、沢井恭子が目覚めると、五十嵐孝雄の琴房から漏れてくる音が微かに聞こえた。琴房は防音材が施されていたため、音は小さく、皆の休息を妨げることはなかった。

しかし沢井恭子が携帯を確認すると、まだ六時だった……

彼女は起床し、身支度を整えた後、体を動かし、いつも通り階下で太極拳を始めた。

ただし今日の太極拳は、少し上の空のようだった。

あの日浦和音楽学院に行った時、確かに佐藤大輝を見かけたのに、後で探しに行くと姿が消えていた。

この二日間も朝食を届けに来なかった。もし佐藤百合子がビデオ通話で、毎晩お父さんが寝かしつけに帰ってくると言わなかったら、この男がまた姿を消したのではないかと疑っていただろう。