五十嵐孝雄は立ち上がろうとする動きを止め、一瞬茫然としていた。
失血過多と激しい痛みで、彼の頭は少し回らなくなっていた。
どこから琴の音が?
この音の入りが絶妙だった!この曲は前奏と山場の間に、一つの間が必要で、そうしてこそ人の心に空虚感を生み出し、その後の山場でより一層人を魅了することができるのだ。
彼はこの間の長さを求めて、この二日間家で何度も練習を重ねていた。
しかし、いつもうまくつかめなかった。
だが今、この間の取り方が完璧だった!
そして、山場の音符は彼以上に素晴らしく、より熟練していて、より力強かった!リズム感も人を魅了するものだった!
同じ曲でも、異なる人が弾くと異なる力を持つものになる!
彼は驚愕し、半身を起こしたまま、ゆっくりと硬直しながら首を回すと、あの「東方楽器を解さない」細川奈々未が、素早く琴弦を弾いているのが見えた。