第277章 チャンピオン!!

沢井恭子と五十嵐孝雄はステージに上がった。

二人は左右に分かれ、舞台の上に座った。

民族音楽学科の学生たちは、すぐに息を呑んで緊張した。

管弦楽学科の学生たちは、突然「ふん」という声を上げ、中指を下に向けて、二人に降りろという意思表示をした。

精神力の弱い学生なら、とっくに観客席の状況に怒り心頭に達していただろう。

しかし、舞台上の二人は、一人は物憂げで、もう一人は他人の言論など気にも留めない性格だった。

五十嵐孝雄は沢井恭子に頷き、そして青く腫れた指を琴弦に置き、指先をはじいた!

美しい音が鳴り響くと同時に、五十嵐孝雄は激しい痛みが走り、指が痙攣しそうになった!

しかし、彼は耐えた。

この曲を最後まで弾き切らなければならない!

優美で柔らかな旋律がホールに漂い、琴の音が立ち込め、人々は自然と静かになっていった。先ほどまでステージに向かって中指を立てていた学生たちも、この琴の音に心が落ち着いていくようだった。

この瞬間、人々は琴の音色に全ての感情を癒されているようだった。

焦り、悔しさ、虚飾など、生活の中で妥協せざるを得なかったものが、この時はもはや重要ではなくなり、琴の音は清水のように彼らの負の感情を洗い流し、母親の大きな手のように、彼らの不安を撫でていた。

なぜか、皆は突然、細川奈々未が以前言った言葉を思い出した。

古琴は病を治すためにある。

この音色は西洋楽器とは本当に違う感覚を与える。

管弦楽の学生たちでさえ、この時ばかりは騒ぎを止め、心が落ち着くのを感じていた。

温井琴美は舞台裏に立ち、ステージ上の音楽を聴きながら、拳を強く握りしめた。

この曲は素晴らしい。

なるほど、五十嵐孝雄が試合前にあれほど自信を持っていたわけだ!

しかし、彼女の視線は再び沢井恭子に向けられた。

女性は物憂げに指を古琴に置き、時折気ままに一音を弾いていた。

琴の音が一つになり、会場の人々は何も気付かなかった。

五十嵐孝雄は演奏に力を入れながら、指の痛みにも耐えなければならなかった。

そのため、会場の誰一人として、沢井恭子が一見気ままに見えながら、実は五十嵐孝雄が痛みで弾けなかった音を全て補っていることに気付かなかった!