086 得意

二見奈津子は窓の外を見つめた。

佐々木和利は思った。彼女は血のつながった両親や兄が心の中に自分の居場所がないことをまだ気にしているのだろうか?

「なぜ『午後四時半』というタイトルをつけたの?」佐々木和利は話題を変えた。

二見奈津子は軽くため息をついた。「母は幼い頃、冬の午後四時半の太陽が一番怖かったと言っていました。血のように赤く、山々や森を染め尽くすその光に、恐怖の中にいるような感覚が影のようについて回っていたそうです。後に父と都会で暮らすようになり、高層ビルが夕日の恐怖を遮り、密集した人々が安心感を与えてくれて、やっとその無力感から抜け出せたと。」

「両親が亡くなった後、私は数年間一人で過ごしました。その日々の食事にも事欠くような生活の中で、私も母と同じように夕日を恐れるようになりました。でも、それが母との共通点だったからこそ、血のように赤い夕日に親近感も覚えるようになったんです。」二見奈津子は目を伏せた。