086 得意

二見奈津子は窓の外を見つめた。

佐々木和利は思った。彼女は血のつながった両親や兄が心の中に自分の居場所がないことをまだ気にしているのだろうか?

「なぜ『午後四時半』というタイトルをつけたの?」佐々木和利は話題を変えた。

二見奈津子は軽くため息をついた。「母は幼い頃、冬の午後四時半の太陽が一番怖かったと言っていました。血のように赤く、山々や森を染め尽くすその光に、恐怖の中にいるような感覚が影のようについて回っていたそうです。後に父と都会で暮らすようになり、高層ビルが夕日の恐怖を遮り、密集した人々が安心感を与えてくれて、やっとその無力感から抜け出せたと。」

「両親が亡くなった後、私は数年間一人で過ごしました。その日々の食事にも事欠くような生活の中で、私も母と同じように夕日を恐れるようになりました。でも、それが母との共通点だったからこそ、血のように赤い夕日に親近感も覚えるようになったんです。」二見奈津子は目を伏せた。

「だから、画家としてのペンネームが『裕子』なんだね?」佐々木和利はやっとその意味を理解した。

二見奈津子は軽くうなずいた。「後になって少し成熟し、生活も落ち着いてきてからは、どんな時間帯も平然と向き合えるようになりました。でも午後四時半は、私と母が困難の中で共に経験した心の軌跡なんです。だから、母の小伝を書くときにこのタイトルをつけました。藤原美月と田村良太郎が面白いと思ってくれて、全会一致で決まりました。母が天国で見守っているなら、きっと分かってくれると思います。」

佐々木和利の心が思わず痛んだ。

自分の苦難について語るとき、彼女はいつも軽く流してしまう。でも実際には、とても繊細な人なのに、こんなにも強く自立している。これは一体どれほどの苦難を乗り越えてきたのだろう!

伊藤さんは嬉しそうに部屋で忙しく働いていたアシスタントたちを追い払った。二見華子は爪の手入れをしながら、ちらりと彼女を見上げ、全員が出て行ってから尋ねた。「うまくいった?」

伊藤さんはうなずいた。「世間知らずの若い娘だから、簡単に操れたわ。でも、あの男は金が少なければやる気にならなかったわ。高橋真理子を売った金を全部彼のものにすると匂わせたら、やっと同意したの。これでいいのよ。もし誰かが追及してきても、私たちには関係ないってことになるわ。」