奈津子は彼の機嫌がよさそうなのを見て、遠慮なくポケットからペロペロキャンディーを取り出し、包み紙を剥がして、一つを自分の口に入れ、もう一つを和利に差し出した。
和利は目の端で近くにフラッシュが光るのを見つけ、堂々とペロペロキャンディーを口に含んだ。
「美味しい?」奈津子が尋ねた。
和利は頷いた。
「晴子さんのおすすめのお菓子は、はずれがないのよ」和利はそこで初めて、これが藤原美月のおすすめだと知った。
「女の子はみんなお菓子が好きなの?」和利が尋ねた。
奈津子は首を振った。「わからないわ。私たちがお菓子を食べるのは、インスピレーションのため、眠気覚ましのため。昔、晴子さんはタバコも吸ってたけど、彼女の理想の人に出会ってから、やめたの。あの人が彼女にもたらした唯一の良いことは、タバコ中毒にならなかったことね」
「彼女は失恋の影から抜け出せたの?」和利は今の奈津子の機嫌が極めて良いことを知っていた。彼女が自分の周りの出来事を共有してくれているからだ。
奈津子は首を振った。「私が思うに、抜け出せないんじゃないかな。表面上は大丈夫そうに見えるけど、彼女って人は、表面が穏やかなほど、心の中の傷が深いの。晴子さんはあの人をとても愛していたから、きっと彼女の全ての恋愛感情があの人と一緒に埋葬されちゃったんじゃないかな」
和利は心を動かされた。「彼女はあの男を恨んでいるの?」
「恨む?ないわよ!愛することに全力を尽くしたのに、どうして恨む余裕があるの?それじゃ疲れ果ててしまうでしょう?」奈津子は軽やかに和利の前で一回転し、小さな蝶のようだった。
和利は突然関口孝志のことを思い出し、言った。「僕の友達で、家族の圧力で彼女と別れて、今の婚約者と一緒になった人がいるんだ。その人は完全に変わってしまって、すごく落ち込んでいる。二人の関係もよくない」
奈津子は初めて彼が自分の友達の話をするのを聞いて、驚いた。「彼は婚約者のことが好きじゃないの?じゃあなんで婚約したの?元彼女は、彼のことをすごく愛してたの?」
こんな金持ちの恋愛ドラマみたいな話が現実にあるなんて思わなかった。