二見奈津子は額に手を当てたい衝動を抑えた。
向井輝は彼女に目配せをして言った。「夫より姉妹の方が大事よ」
そう言って左右を見回した。
二見奈津子は笑いを抑えながら「お義母さんに聞かれるのが怖い?」
二人は笑い合い、距離が一気に縮まった。
二人はそれぞれの経験を語り合った。
向井輝は言った。「私は先祖のおかげで、家族は宝石商を営んでいたの。小さい頃は祖母の元で育って、宝石をおもちゃにして遊んでいたわ。両親とは仲が悪くて、子供の頃はとても反抗的だった。祖父母が亡くなってから、海外留学に送られて、まるで野草のように自由奔放に育ったの」
二見奈津子は笑って「私たちには似たところがありますね」
向井輝は頷いた。「佐々木理恵からあなたのことを聞いたわ。過去がどうであれ、今は私たちも大人になったのだから、しっかり生きていきましょう」
二見奈津子は微笑んで「はい、しっかり生きていきましょう」
「佐々木和利はあなたにどう?」向井輝は二見奈津子の結婚生活を心配して尋ねた。
二見奈津子は頷いて「とても良いです」
「佐々木家の者は皆、感情を大切にする人たちよ。一途で情熱的。佐々木光に出会うまで、私は恋愛なんて信じていなかった。考えてみて、親からの愛情も期待できないのに、恋愛なんて、何の意味があるの?以前何度か恋愛をしたけど、全然心を開けなかった。後で、その男たちが浮気をしたり、二股をかけたりしても、特に傷つく感じもなくて、むしろほっとした感じだったわ。ほら!結局こうなるんでしょう?って。佐々木光に出会うまではね」向井輝は言葉を切った。
向井輝の視線は二見奈津子の一枚の絵に落ちた。その絵は『待ち』という題で、黒い瓦と白壁の路地に、一人の凛とした後ろ姿の少年が立っていた。
「後でこの絵を見た時、すぐに佐々木光を思い出したの。彼はまさにこんな感じ。いつも私たち二人だけの場所で私を待っていて、岩のように揺るがない。私の感情がどんなに激しく揺れても、いつも静かに受け止めてくれる」向井輝の声は低く穏やかだった。
二見奈津子は彼女の横顔を見て、思わず心を動かされた。素晴らしい恋愛は、いつも人の心を打つものだ。