藤原美月は何も言えなかった。
「よし、もう問題ないね。君が同意してくれたってことにするよ!」井上邦夫は結論を下した。
「恋は止められないものだからね。まずは関係を確定させよう。そうすれば僕も自分をアピールしやすいし、君も僕のことを知りやすくなるだろう」井上邦夫は一方的にほっとした様子で言った。
藤原美月の心の中にゆっくりと温かい気持ちが広がっていった。彼女は少し苦しそうに頷いた。「井上さん、私は、多分あなたが思っているほど良い人じゃないかもしれません。きっと、あなたを満足させられないと思います」
井上邦夫は笑って言った。「想像するまでもなく、君は素晴らしい人だよ。僕が満足するかどうかなんて考えなくていい。女の子は自分が満足できればいいんだ。僕のことは気にしなくていいよ」
藤原美月は呆然とした。
井上邦夫は手を伸ばして彼女の頭を軽く叩いた。「変なことを考えないで。君は今病気なんだから、これは彼氏を試す絶好のチャンスだよ!何が食べたい?何がしたい?何でも言ってごらん。僕は万能彼氏になるつもりだから!さあ、要望を言って!言って!」
藤原美月は、両親でさえこんな風に子供扱いされたことはなかった。
井上邦夫は彼女の額に触れた。「まだ少し熱いね。もう一杯水を持ってくるよ。その間、瑞希ちゃんと遊んでいて。僕はお粥を作ってくる。風邪の時は胃腸が弱くなるから、消化の良いものを食べないとね」
井上邦夫は笑顔で、あれこれ言いながら、忙しく立ち回っていた。
藤原美月は瑞希ちゃんを抱きしめながら、ずっと井上邦夫の姿を追いかけていた。何も言わず、ただ静かに聞いているだけで、突然心の中が満たされ、温かくなった。
向井輝の展示会は一週間の予定で、無事に終了した。
デザイナーとして、展示会の主催者として、向井輝は象徴的に三日間だけ姿を見せ、残りの時間は全て二見奈津子に任せた。
佐々木理恵はネット配信を担当し、向井輝の名声と佐々木理恵自身の人気により、配信での売上は実店舗での売上の4倍以上になった。この結果に家族全員が驚いた。
家族の食事会で、佐々木理恵は自分の成果を誇らしげに語った。「インターネット時代だからね。ビジネスをする時も、時代の流れに乗らないとね!」
佐々木光は笑いながら佐々木和利に言った。「妹が兄さんに教えているみたいだね」