308 弟

二見華子は思わず歯を食いしばった。この橋本拓海のやつ、ずいぶんとひどい奴だ。恩を仇で返すとはまさにこのこと!表面上は立派な人物を装っているくせに!自分の言いたいことが分からないはずがないのに、こんな方法で誤魔化すなんて、ひどすぎる!

「二見さん?」伊藤静香は彼女が物思いに耽っているのを見て、声をかけた。

二見華子が何とか集中しようとした時、突然横からガラスの割れる音が聞こえ、彼女は驚いて飛び上がった。

二人は思わず横を見やると、人だかりができているのが見えた。

伊藤静香は溜息をつきながら言った。「この不良な若者たちときたら、しょっちゅう喧嘩ばかり。ホルモンが暴走してるんでしょうね!」

二見華子は一度目を逸らしたものの、偶然隙間から見えた顔に気付き、すぐに立ち上がった。