314 意識

井上邦夫は新鮮なシャンパンローズを花瓶に挿し、花束を整えてから、藤原美月の頭を撫でて、座って彼女の手を握った。

「今日はどう?僕のこと考えてた?今日、花屋で最後の一束のシャンパンローズを手に入れたんだ。本当にラッキーだったよ。花屋のおばさんに毎日シャンパンローズを一束取っておいてもらうようにお願いしたんだ。妻にあげるって言ったら、必ず取っておいてくれるって。私みたいな誠実な良い男は珍しいって言われたよ!」

「美月、褒められちゃったよ。僕がこんなに良い男なんだから、早く目を覚ましてくれないと、他の人に取られちゃうかもしれないよ!」

「美月、きっと君は一人で、自分の世界を旅してるんだろうね。素敵な景色に出会って、帰りたくなくなっちゃったのかな。でも、僕のことを忘れないでね。ここで待ってるから。僕を一人にしないでよ。可哀想だよ!遊び疲れたら、休み終わったら、帰ってきてね。一緒に世界中を旅行しようよ!」

「美月、兄さんが今は僕のことをよく面倒見てくれてて、もう海外に行かせようとはしないんだ。昔は厳しかったよ。一言で地球の反対側に追いやられてた。いろんな国に行ったよ。一番寒いところも、一番暑いところも、一番お金持ちの国も、一番貧しい国も。人生の苦しみをたくさん見てきた。今度は君と一緒にもう一度行こう。奈津子さんが脚本を書いてって言ってたでしょう?素材集めにちょうどいいよ。」

「美月、執事から聞いたんだけど、母さんが密かに結納の準備をしてるんだって。それに兄さんに、もし彼女見つけないなら、兄さんの分の結納品も全部僕の嫁さんにあげるって言ったんだって。へへ、まさか兄さんもこんな日が来るとは!」

「これは全部君のおかげだよ。君がいるから、母さんと兄さんの前で胸を張れるようになったんだ。兄さんがどんなに優秀でも、母さんに嫁を連れて来られない息子は良い息子じゃないからね!」

井上邦夫は得意げに話しながら、自分でへへと笑い出した。彼が藤原美月の手を開いて自分の頬に当てると、突然、彼女の指が少し動いた。

井上邦夫は一瞬固まり、動けなくなった。

藤原美月の人差し指が彼の頬でもう一度縮んだ。今度の感触は、とても明確だった。

井上邦夫は慎重に藤原美月の手を自分の前に持ってきて、小声で呼びかけた。「美月?」