325 忘れる

森永さんは藤原美月に自分の家から嫁に行かせることを主張した。彼女は彼が認めた娘であり、森永家は藤原美月の実家であり、これは藤原美月の面目であり、井上家の面目でもある。藤原美月の両親ができなかったことを、彼が代わりに成し遂げようとしていた。

藤原美月の足はまだ完全に治っておらず、ほとんどの時間は車椅子に座っていなければならなかったが、結婚式の準備には支障がなかった。

井上邦夫は生まれ変わったような感覚を覚えていた。実際に生まれ変わったのは藤原美月だったのだが。

今の藤原美月は明るく活発で、以前時々見せていた悲しみや憂鬱の影は跡形もなく消え去り、失われた記憶は彼女の心の底にある傷も一緒に連れ去ってしまった。

二人の結婚指輪は向井輝が何晩も徹夜して作り上げたもので、婚礼衣装は安藤さんたちが自ら手縫いで仕立てた純中国式の鳳冠霞帔だった。新郎新婦がしなければならない唯一のことは、ウェディング写真を撮ることだけだった。これは他人に任せることのできない事だった。

関口孝志はイライラしながら店員が手渡したアルバムをめくっていた。林千代の着替えを待っている間のことだった。これは彼と林千代が撮る4セット目のウェディング写真だったが、まだまだ足りないようだった。彼は女性の気持ちが本当に理解できなかった。結婚するだけなのに、なぜこんなに面倒なのだろうか?

以前はそんなに結婚を急いでいた林千代だったが、ようやく結婚の日取りが決まった今になって、逆に焦らなくなった。すべての細部を完璧にしようとし、ドレスの試着から今の写真撮影まで、彼をすっかり疲れ果てさせていた。

目の前に広がるウェディングドレスを見ていると、ふと藤原美月のことを思い出した。

藤原美月はきっと何度もウェディングドレスを着る姿を夢見ていただろう。しかし、自分は彼女の願いを叶えてあげることができなかった。

関口孝志の胸が針で刺されるように痛んだ。

「井上邦夫、疲れちゃった。もう撮りたくないわ。この1セットだけでいいでしょう?」甘えた声が耳に入り、関口孝志は雷に打たれたような衝撃を受けた。

彼は立ち上がり、その声のする方へ歩み寄った。